第9話 閑話 ミアの決意
時は少し遡り、レイが三年ぶりに学校を訪れた次の日の話
~side ミア~
私の名前はミア。テンペの村に住む十三歳の女の子。お父さんは冒険者で、お母さんは村の薬屋で働いている。
私には幼なじみの男の子がいて、彼の名前はライトといった。ライトのお父さんも冒険者だったんだけど、彼が十歳の時、同じパーティーだった私のお父さん達を救うために犠牲になってしまった。
私達は元々仲がよかったし、ライトがお父さんが亡くなって落ち込んでいたから、『これからは、私がライトを守らなきゃ』って思ったのを覚えている。
ライトは、力が弱く運動があまりできなかったせいか、学校のクラスメイトからいじめられていた。それでも家族に心配をかけまいと頑張っていたんだけど、中等部に入ってすぐお父さんが死んでしまったことで、学校に来なくなってしまった。
そんな彼が昨日、三年ぶりに学校に来たと先生に聞いたのだ。そして、最近転向してきた隣町の男爵家の三男坊とトラブルを起こしたとも。
「ビゲル! あんた昨日ライトに何をしたの!」
その話を聞いた私は登校早々に当のビゲルに詰め寄った。
「あん? てめえに何か関係あんのか? にしても昨日の引きこもりの顔は面白かったな! 鼻血なんか出しちゃってよ!」
関係ないと言いつつ、昨日のことをベラベラとしゃべり出す男爵家のお坊ちゃん。転校してきたときから嫌なヤツだとは思っていたんだけど、最近は取り巻きどもも増えてますます自分勝手な行動に磨きがかかっている。今も、拳を突き出して誰かを殴る素振りを見せているし。
「まさかライトを殴ったんじゃないでしょうね?」
顔、鼻血、そして今の人を殴る素振り、その全てがビゲルがライトの顔を殴ったことを示している。
「さーて、どうだったかな? なあお前ら、昨日そんなことがあったか?」
ビゲルに聞かれた取り巻きのひとりは、『引きこもりのヤツが、ビゲルさんの拳に顔から突っ込んできたんじゃなかったでしたっけ?』というわかりやすい嘘をついて笑っている。何かイライラしてきた。
「それで、なんであんたは右手に包帯を巻いているのかしら?」
「おい、ミア。ビゲルさんをあんた呼ばわりするな!」
別の取り巻きの口からそんな声が聞こえてきたが、ひと睨みすると大人しくなる。
「こ、これは、その名誉、名誉の負傷だ!」
今の会話の中でどこに名誉が出てきたのかわからないけど、もし自分の拳が怪我するまでライトを殴ったとしたら絶対に許さない!
「もういいわ。ライトになんかあったら、あんた達絶対に許さないんだからね!」
それだけ言い放って、私は教室から飛び出した。そしてライトのことを聞こうとして廊下で捕まえた先生に、ライトのお母さんが今朝学校に来て彼の退学届を提出したことを聞いた。
(何で辞めちゃうの!?)
ライトのことで頭がいっぱいだった私は、その後の授業はまるで頭に入らなかった。本当はすぐにでもライトのお母さんに会いに行きたかったから。
そして放課後、急いでライトのお母さんが働いている食堂に向かった。
▽▽▽
「シンディさん、ライトが学校を辞めたって本当!?」
勢いよく食堂に入った私は、ライトのお母さんを見つけるなり、あいさつもせずに大声で今朝聞いた話を確かめる。
「あらあら、ミアちゃんこんにちは。どうしたの? そんなに慌てて」
突然の質問にも慌てず対応してくれるシンディさん。一瞬、何かの間違いだったのではと期待したが、シンディさんの赤く腫れぼったい目を見て、全てが事実なんだということを悟った。
「あの子、急に一人前の料理人になるために修行の旅に出るっていいだしてね。普段は優しいんだけど、時々、言い出したら聞かなくてね。昨日のうちに、隣町に向けて出発しちゃったのよ。珍しいわよね、あの子がこんなに行動的になるなんて」
「あのライトが旅に? だって、だって……」
力もない、運動もできない、魔法だって使えるところ見たことない。そんなライトがひとりで旅に? 魔物や盗賊がうろつく外の世界へ? えっ? えっ? 何でお母さん、そんなこと許しちゃったの?
「あの子も男の子なんだな~って思ってね。お父さんに憧れていたから、いつかはこの時が来ると思ってたのよ」
いやいや、お母さん。それだけじゃ、ひとり旅はやっていけないでしょう! 実力が伴ってないって話だよ! このお母さん、その辺りは疎いんだから……
これは私が何とかしなくちゃいけない。私が行って、ライトを連れ戻してこないと……彼、死んじゃうかもしれない。
私は次の日すぐに学校に休学届を出して、旅の準備を整えた。ここから隣町のビスターナまでは徒歩で五日。事情を両親に話したら、馬車代と路銀を用意しくれた。
剣士としての修行を積んでいなかったら、こんなこと絶対に許してもらえなかっただろう。鍛えてきて本当に良かったと思う。丸一日かけて準備を整えた私は、次の日朝一番で馬車乗り場に行き、ライトの行方を追った。
▽▽▽
三日後の夜、ビスターナの街に着いた私は情報を集めるために、真っ先に冒険者ギルドに向かった。冒険者ギルドには、酒場も併設されていることが多く、情報を集めるなら冒険者ギルドだとお父さんに教えてもらっていたから。そこで受付のお姉さんから聞かされたのは、今思い出しても、激しい怒りと深い悲しみが湧き起こる話だった。
それは、張り切って登録したその日にパーティーメンバーの裏切りにあい、凶悪な魔物に襲われたところで置き去りにされた冒険者の話。その冒険者の名前は『ライト』だと。
なぜ料理人を目指している彼が冒険者登録をしたのかはわからない。だけど、受付のお姉さんから聞いた特徴は、私が知っているライトの特徴と完全に一致してしまった。
私はその話を聞いた後、どうやって宿を取ったのかは覚えていないが、ひとり、部屋で泣いていた。次の日、一晩泣きはらした目をこすりながら私は決意した。ライトをこんな目に遭わせた冒険者に罰を与えてやると。ただし、相手は三人。復讐するためには、強くならなければならない。
ライトを陥れた冒険者達は、すでにこの町を去っていた。何でも別の街に向かうと言っていたらしい。それを聞いた私は、そいつらの後を追いながら自分を鍛えることにした。目指すジョブは
まずは神殿で剣士のジョブを取得する。それからレベル20まで上げて盗賊へとジョブを変える。盗賊は
「まずは村に戻ってレベルを上げて……ライトのお母さんにもこの話を……うぅぅ。待っててね、ライト。どれだけ時間がかかっても、必ず復讐してあげるからね」
涙を拭いてそう呟いたミアの顔は、もう十三歳の少女の顔ではなかった。
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