3-08 アップグレードした
クソどもを始末してから奥の小部屋に場所を移動し、ラボで夕飯を食った。
そしてヤツらのマジックバッグの中身を引っ張り出しているのだが……。
「うーん、なんかあんまりいい物ないな」
悪どいやり方でレッサーダマスカスゴーレムとダイバーを狩ってたわりに、目ぼしいものをあんまり持ってない。金はそこそこ持ってたけど。
「お、主殿。ゴーレムの手があったぞ」
俺が作った親子丼を食べてすっかり元気になったルチアが、うれしそうに金属の塊を持ってきた。
グーの状態でルチアの頭以上のサイズがあるのは、ゴーレムがでかいのかルチアの頭が小さいのか。
「ナイス。他の部位はなかった?」
「これだけのようだ」
「なんで手だけなんだろか。ニケの方はなんかあったか?」
「いえ、大した物はなさそうです」
クソッ、せっかくアリから助けてやったのにほんとクソだったな。
中身を確認できないライディくんのマジックバッグに、いい物まとめて入れてたのか?
仕方ないので、ルチアがテーブルに置いたゴーレムの手を調べることにした。
甲の部分がダマスカス綱になっていて、そこに触る。
そして意識するのは──〈アップグレード〉。
こうすれば自分のステータスが伸びるかどうかわかるのだ。
とはいえこれはただの確認だ。
これまでダマスカス綱を手に入れたことがなかったわけではない。ルチアの盾に使ったりして残ってないので、俺が〈アップグレード〉で調べたことがなかっただけだ。
二人は前に調べたことがあって、あまりステータスが変化しそうになかったらしい。
それなのに──
「あれ? なんか思ったよりステータス伸びそうなんだけど」
──手のひらから伝わる熱というか……喜びのような感覚は、今まで調べてきた中では得ることができなかったものだった。
二人にも調べさせたが、同様の感触を得ていた。
「ちょっと待ってくれ、盾を出してみる」
ルチアが出した盾のダマスカスを〈アップグレード〉で調べてみるも、ほとんどステータスが伸びる感触は得られない。
「どういうことでしょうか」
「わかんね……いや、もしかすると」
今度はゴーレムの甲、ダマスカス綱
……伸びる感触がない。
「なるほど。どうやらこの手全体がアップグレードの対象になってたから、伸びると感じたらしい」
「手全体か……甲の部分以外はただの鉄だと思うのだが」
ルチアはそう言ってコンコンとゴーレムの太い指を叩いている。
たしかに良い素材と悪い素材を混ぜたら伸びるなんて、奇妙な話である。
アゴに指を当ててなにか考えていたニケが、テーブルの上に鉄の塊を出した。
「これは先ほど破壊したゴーレムの胸部ですが……これでも伸びそうですね。しかも受ける感じが違います」
鉄塊に触れて発したニケの言葉に、俺は驚かされた。
だってそれには、ダマスカス綱なんてこれっぽっちもついていないのだから。
俺も試してみると、確かに伸びるし受ける感じが違う。感じの違いは上手く言い表せないのだが。
一緒に試していたルチアが、なにかに気づいたようだ。
「これはもしや、伸びるステータス値の種類が違うのでは?」
「それだ! なんとなくわかってきたぞ。ニケ、ゴーレムの脚を出してくれ」
ゴドンと置かれた左脚に触れてみる。調べても伸びる感じがない。
そのあとゴーレムを部位ごとにバラバラにして調べてみて確信した。
「やっぱり魔物の体そのものだと、部位にちなんだステータスが上がるんじゃないか?」
「となると、攻撃の要である手はSTRで、守りの要である胸はVITやMNDということか」
「そうかもしれません。肩は手と胸が混ざったような感触でしたね」
脚なんかはゴーレムがのろまでAGIが上がらないから、伸びそうに感じないのだろう。
どの程度までバラしても魔物の体そのものと判断されるのかは、これから検証せねばなるまい。
「ふむ、これなら関係ないステータス値が下がることはなさそうじゃね?」
「では私が実験台に、きゃん!」
ニケの肉づきのいいお尻をひっぱたいて却下する。
マゾ気質のニケにはご褒美になってしまい、うれしそうな悲鳴が出た。
「実験台は俺に決まってるだろう。ステータスが下がったとしても、一番影響が少ないし」
「ですがただでさえ弱いマスターが、ああっ!」
ひどい言葉で口ごたえするニケのお尻を掴んでガシガシ揉むと、もっとうれしそうな悲鳴が出てしまった。
「これは決定事項だからな」
「いえ、しかし、んあぁっ!」
そのあともまだまだ言い返してきたので、全身にいっぱいお仕置きしてようやくうなずかせた。ついでにルチアにもいっぱいお仕置きした。
なんかニケの思い通りにことを運ばれた気がしないでもない。ニケちゃん……恐ろしい子!
結果として俺の〈アップグレード〉は、ステータスが下がることもなく上手くいった。
STRとVIT、MNDが二百ほど伸びた。
俺のあとにやった二人は、もっと伸びたけどね……職業格差いまだ健在なり。
そして三日後、さらに快調に進めるようになった俺たちは三十九層に到達。
やっと地上に戻ることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます