仮面の男の正体

「あの、知っていますか? 僕たちを誘拐した仮面の男の情報がSNSに載っているんですよ」

 植本はそう言って自分のスマホを差し出した。わたしたちはスマホを見ると、あの事件の犯人の顔写真と個人情報、犯行理由が書かれていた。

「えっと、名前は神崎緑。彼の実家を家宅調査したところ、スマホやパソコン履歴から、動画配信で有名になりたいことが分かった。今回の事件を配信することで、自分の承認欲求を満たすことにしたらしい」

 スマホに書かれている記事を田山が読み上げていくと、ガシャンッと何かが割れる音がし、全員がそちらへ一斉に視線を向ける。それは玉木が持っていた自身のグラスを床に落として割ってしまっていた。

「悪い、手が滑った」

「大丈夫ですか? 怪我はしてないようですね」

「わ、ズボンが濡れてるじゃん。これで拭いて綺麗にしたら?」

 植本が玉木の心配をし、グラスを落としたことで中身がズボンにかかって濡れたことに気付いた石井が、用意されていたおしぼりを差し出した。

「玉木は動くなよ。足元が破片だらけなんだから」

「すみません。グラスを割ってしまったのですが、代わりを持って来ていただけませんか?」

 中川は玉木に動かないように伝え、羽間は受話器から店員に連絡を取っている。

 わたしと田山は机にこぼれた液体を、残りのおしぼりで拭き取っていく。あらかた机が綺麗になった頃、店員が玉木の代わりの飲み物と箒とちりとりを持って現れた。すぐに店員が割れたグラスを片付けて、退室すると、わたしたちは再び話題をあの仮面の男に移した。

「そういえばさっきの話の続きだけど、完全に向こうの勝手じゃん!」

「本当、あり得ない。自分が有名になりたいからって、人を殺そうとするなんて頭おかしいんじゃないの?」

「俺たちを選んだ理由は分からないままだから、気味が悪いよな」

「そうですね。僕たち、共通点と言ったら高校生ってだけですし、他に共通点らしいものはないですよね」

「承認欲求を満たしたいだけみたいだし、誰でも良かったんじゃないの? こっちの人生を何だと思っているのよ!」

 みんなが口々に犯人の悪口を言う。こっちは被害者なんだから、これくらい言ってもいいだろう。

「もう、そんな暗い話はなしなし! じゃあ、トップバッターいきまーす♪」

 石井がマイク越しの声で事件の話をかき消し、流行りの曲を流して歌い始めた。

 それからはそれぞれが好きな曲を歌い、時間はあっという間に過ぎた。

 カラオケ店を出たのは十九時を過ぎていた。全員ストレス発散出来たのか、晴れやかな顔をしている。

「あー楽しかった。またやろうね」

「今度は怪我が治ったらボーリング行きてぇな」

「それなら早く治してね」

「無茶言うなよ」

 田山と玉木のやりとりをクスリと笑うと、植本がパンッと手を叩いた。

「そろそろ帰りましょうか。僕、玉木さんと帰り道が同じなので彼を連れて帰ります」

「俺はルリカと同じとこに住んでるから、一緒に帰るわ」

「バイバーイ」

 四人はそう言うと、それぞれの方角へ帰っていく。

「田山はどっちなの?」

「わたし、ここからすぐだから」

 そう言って片手を振って帰っていき、わたしと羽間だけ残った。

「羽間はどこなの?」

「わたしは駅方面ですね」

「あ、わたしも同じ方向だから一緒に帰ろう」

 わたしの言葉に羽間は頷き、帰り道を歩く。それから途中で羽間とも別れ、わたしは自宅に帰宅した。

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