5-7 知られざるジェニーの過去 7

『そうだったのですか……』


ジェニーの話は衝撃的なものだった。

あれ程ジェニファーに対して罪悪感を抱いて懺悔室で泣き、謝罪の手紙を書き貯めていたのに。

それが今度は自分がジェニファーに成り代わり、2人の初恋を引き裂いて自分が妻の座につこうとしているなんて……。


『ジェニーさん、お相手の男性に……本当のことを告げるつもりは無いのですか?』


しかし、ジェニーは泣きながら首を振る。


『……出来ません。だって、ニコラスは私が過去に出会ったジェニファーだと信じているんです。結婚が決まった今更、本当のことなんて言えません! お父様にだって全て知られてしまいます!』


『ですが、彼が結婚を決めたのは過去のジェニファーさんではなく、今のジェニーさんを好きになったからなのではありませんか? 真実を告げても……ひょっとするとそのまま受け入れてくれるとは思いませんか?』


『思えません……絶対に、真実を知ったらニコラスは怒るに決まっているわ! そうしたら私、捨てられてしまう……私、本当に彼を愛しているんです! 彼のいない人生なんてあり得ません!』


『そんな……』


それでは、一体彼女は何をしたくてこの教会に来たのだろう?


『ジェニーさん、この教会へ来たのは……自分の罪を悔い改めて、結婚相手に真実を告げる決意を固める為ではなかったのですか?』


しかし、ジェニーは口を閉ざしたままだ。


『ジェニーさん?』


『……がいます……』


『え? 今何て……』


『違います。そうじゃないんです……! 私はもう二度とジェニファーに会うことは無いでしょう。お父様だって、ジェニファーのことをとても怒っていて、二度と会う必要は無いと言っています! 私がここに来たのは……シスターに手紙を預かって欲しいからです……』


ジェニファーは肩から下げていたショルダーバッグから束ねた手紙を取り出した。


『シスター、この手紙……どうか預かってください。そして、いつかジェニファーがこの教会を訪ねてくることがあれば……渡して頂けますか?』


『え……? ジェニファーさんが訪ねて……?』


一体ジェニーは何を言っているのだろう? どうしてここにジェニファーが現れると言い切れるのか分からなかった。


『ジェニーさん、まさかまだジェニファーさんの住所を御存知無いのですか?』


『いいえ、知っています。近々結婚報告の手紙を出すつもりです』


『だったら……』


『それでも! お願いです、どうか預かって……ゴホッゴホッ!』


再び苦し気に咳をするジェニーの背中を慌ててさする。


『ジェニーさん、大丈夫ですか?』


ジェニーの顔は真っ青で青白くなっている。……本当にただの喘息なのだろうか?


『シスター……聞いて下さい……』


荒い息を吐くジェニー。


『はい、何でしょう?』


『父も……ニコラスにも伝えていないのですが……私、心臓の病気にかかっているのです。長くても、後数年の命だろうってお医者様から言われています……』


『え!?』


あまりの話に言葉が出て来ない。


『私は、どのみち……もう長生き出来ない身体なのです……だから人並みに恋愛して、結婚して……出来れば可愛い子供も欲しいのです……身勝手で我儘だって言われても、それでも女性としての幸せを味わって……死にたいのです』


『ジェニーさん……あなた……』


『私はこの教会が好きです。もし自分が死んだら、ここにお墓を立てて貰って眠りにつきたい……。その時、きっとジェニファーはここに来るはずなんです。いつかジェニファーがここを訪ねてくるまで、手紙を預かって下さい。どうか、お願いします……』


ジェニーは私に頭を下げてきた。


『分かり……ました。手紙、お預かりいたします』


死を間近に控えたジェニーの頼みを……私は断ることなど、出来なかった――




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