5-3 知られざるジェニーの過去 3

 悲し気にすすり泣くジェニー。


自分のついた嘘のせいで、悪者にされて屋敷を追い出されてしまった少女のことを思えば、確かに罪悪感に苛まされてしまうのは無理もないだろう。

そこで私は彼女を落ち着かせる為に声をかけた。


『ジェニーさん、秘密を話してくれてありがとうございます。さぞかし苦しかったでしょうね』


『はい……シスター……』


『もし、いつかジェニファーさんに会える機会があったら、誠心誠意を込めて謝ってみてはいかがですか? お話を聞く限り、その人はとても心の優しい少女なのでしょう?』


『そうです。ジェニファーは……本当に優しくていい人です……。私はそんなジェニファーが大好きで、私と違って元気なジェニファーが羨ましくて……』


『なら、もし今度ジェニファーさんに会える機会があったら、誠心誠意心を込めて謝ってみたらどうですか? きっとジェニーさんのことを許してくれると思いますよ?』


『だ、駄目です! 私……きっと、もう二度とジェニファーに会えません!』


突然ジェニーが声を荒げた。


『どうして、もう会えないと思うのですか?』


『それは、お父様がジェニファーのことを……とても怒っているからです。もう一生会うことは無いし、私とも会わせないって言うんです。身体の弱い私を置いて、遊びに行ってしまうような薄情者とは……縁を切るって……』


『そうなのですか……』


これは相当根深い話だ。

ジェニーの父親は、何故血の繋がりのある姪をそこまで憎めるのだろう? けれど、先程、彼女は元気なジェニファーが羨ましいと言った。

あくまで私の考えだが、ひょっとすると彼は健康で丈夫なジェニファーを妬んでいたのかもしれない。その妬みが、死にかけた娘をほったらかしにしたことへの憎しみに繋がってしまったのかも……。

そう考えると、2人がこの先再会する機会はもう無いのかもしれない。


『私……きっとジェニファーに嫌われてしまったわ……たった一人きりの友達だったのに……』


再びジェニーはすすり泣きを始めた。


『ならジェニーさん。ジェニファーさんにお手紙を書いてみてはどうですか? 謝罪の手紙を書いて送るのです。きっとジェニーさんの心が通じるはずです』


『手紙だって……駄目なんですっ! 私は……ジェニファーの住所も知らないし、それにジェニファーは言っていたんです。一緒に住んでいる叔母さんは、ジェニファー宛ての手紙は全て勝手に開けて読んでしまうって。もし仮に手紙を送れたとしても、きっと叔母さんに読まれてしまう。そうしたら、お父様に私がついた嘘がバレてしまうかもしれません!』


『!』


その話に一瞬、言葉を無くすほど驚いてしまった。

可哀そうに……ジェニファーという少女は家でも虐待を受け、叔父からも酷い言葉で傷付けられて追い出されてしまったのだ。

恐らくジェニファーは自分を責め続けているだろう。ジェニーは自分が嫌われてしまったと言っているが、それはきっと無いだろう。

ただ、自分だけを責め続けているに違いない。


だとしたら……。


『ジェニーさん、やはりジェニファーさんに謝罪のお手紙を書いたらどうかしら?』


『え? だ、だって……住所も知らないし、手紙を出しても一緒に住んでいる叔母さんに読まれてしまうかもしれないのにですか……?』


『ええ。それでも手紙を書きましょう。自分の思いを書き留めておくのです。いつかジェニファーさんにお手紙を渡せる日が来るのを信じて。手紙を書いて謝罪するのも懺悔の一つだと思いますよ?』


少しの間、ジェニーは口を閉ざしていたが……。


『分かりました、シスター。私、ジェニファーに手紙を書きます』


壁越しから聞こえてきたジェニーの言葉は……先ほどよりも力強さが感じられた——


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