5-2 知られざるジェニーの過去 2
『すごく悪い子……? 一体それはどういう意味なのですか?』
少女を落ち着かせる為、私は静かに尋ねた。
『あ……そ、それは……』
しかし、少女は首を振った。
『駄目です……言えません! 誰にも聞かれたくないんです! だけど本当は誰かに話してしまいたい……重い罪を1人で抱えるのが辛くて……』
美しい少女は顔を真っ赤にさせてボロボロ泣き続けている。
可愛そうに……まだ子供なのに、こんなに悩み苦しんでいるなんて。いったいどれほどの罪を抱えているというのだろう。
誰かに話してしまいたいと思っているなら……。
そこで私は少女に提案してみることにした。
『お嬢さん、もしよろしければお名前を教えて貰えますか?』
『私はジェニー・フォルクマンです……』
『そう、ジェニーさんと言うのね? 素敵なお名前ね。ねぇジェニーさん。この教会には自分の罪を告白し、許しを請う懺悔室というのがあるの。もしよければ、その部屋で自分の抱えている秘密を全て吐き出してしまったらどうかしら。そうすれば心に抱えていた重い悩みも少しはかるくなるかもしれないわよ?』
私の提案に少女は喜んだ。
『懺悔室ですか……? はい、使いたいです! 使わせて下さい!』
『分かったわ。では今から懺悔室へ行ってみますか?』
『はい!』
そこで私はジェニーを懺悔室に連れて行き、彼女の抱えてしまった罪を聞くことにしたのだった。
****
懺悔室に入ると、私はさっそく壁に取り付けられた小窓を開けて、壁を隔てた向かい側のジェニーに声をかけた。
『ジェニーさん、いらっしゃいますか?』
『はい、シスター』
先程よりは落ち着いた返事が聞こえる。
『ではジェニーさん。あなたがどんな罪を抱えているのか、話してください』
『分かりました……実は……』
そして私はジェニーの抱えていた重い秘密を知ることになった。
自分にはジェニファーという名前で同じ年齢の従姉妹がいること。2年前、酷い喘息の持病で『ボニート』に療養で滞在することになったこと。
病弱で外に出られない自分の為に、父親が話し相手として同い年の自分にそっくりな従姉妹、ジェニファーを連れて来てくれたことを語った。
自分と違い、元気なジェニファー。
そこであることを考えついた。貴族は献金活動の義務がある。自分にそっくりなジェニファーを身代わりにして、教会に献金しに行って貰うことを考え……その方法はうまくいった。それどころか自分の名前で、ジェニファーは素敵な少年との出会いも果たしたのだ。
ジェニファーから少年の話を聞いている内に、まだ会ったことも無い少年に好意を抱くようになり……やがて少年がどんな顔をしているのか知りたくなってしまった。
そこでジェニファーに頼んで写真を撮ってもらうことにしたのだが、写真が出来上がるその日、喘息の発作が起きてしまった。
朝から体調が悪かったが、どうしても写真を見たかったのだ。
ジェニファーは外出を渋ったが、自分の気持ちを優先して町へ行かせた。
けれど、ジェニファーが外出してすぐに喘息の発作で呼吸困難になり……。
『目が覚めた時には私、首都の一番大きな病院に入院していたんです。お父様は私が助かったことを泣いて喜んでくれました。そして知りました。私の側にいなかったジェニファーをお父様は酷く叱りつけて、追い出したてしまっていたんです。ジェニファーは何も悪くないのに、私が写真を欲しがったばかりに無理に町へ行かせてしまっただけなのに……。だけど、お父様に嘘をついていたことがバレるのが怖くて、本当のことを言えなかったの……! そのせいでジェニファーは酷い目に……ごめんなさい、ジェニファー……私を許して…‥‥』
そして、再びジェニーのすすり泣く声が壁越しから聞こえてくるのだった――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます