3-3 出迎えた使用人
シドが呼び鈴を鳴らし、少し待つと扉が開いてスーツ姿の初老の男性が現れた。
「どちら様でしょうか……え!?」
男性はジェニファーを見ると目を見開く。その様子にジェニファーはすぐに気付いた。
(きっとジェニーはこのお城に滞在したことがあるのだわ)
「お久しぶりです、執事長。俺のこと覚えていますか?」
そこへシドが男性に声をかけた。
「あ……もしや、君は……」
「はい、ニコラス様の護衛騎士のシドです」
「これは驚きましたね。この城へ来るのは3年ぶりでは無かったかな?」
「はい、お久しぶりです。連絡もせずに突然伺って申し訳ございません。実は本日より一月ほどこちらの城に滞在するようにニコラス様から言われて参りました。手紙を預かっております」
シドは丁寧に挨拶すると、ニコラスから預かっていた手紙を手渡した。
「では、拝見させて頂きましょう。……確かに封蝋はテイラー家の物で間違いないようですね」
執事長は手紙を預かると確認し、その場で開封した。
「確かに筆跡にもニコラス様の……」
少しの間、執事長は手紙に目を通すと頷いた。
「用件は分かりました。それでは、あなた様が…‥?」
執事長はジェニファーに視線を移すと、シドが先に紹介した。
「こちらはジェニファー・テイラー様です。そして隣にいるのはメイドのポリーです」
「はい、ジェニファーと申します。この度、縁あってジョナサン様の母親代わりになりました。どうぞよろしくお願いいたします」
(とてもではないけれど、自分の口からニコラスの妻だなんて、おこがましくて口に出せないわ)
ニコラスから拒絶されていることが身に染みて分かっているジェニファー。あえて妻とは言わずにジョナサンの代理母だと自己紹介したのだ。
「ジェニファー様の専属メイドとなったポリーです。初めまして」
2人が挨拶すると、執事長も自ら挨拶をした。
「私はこの城の執事長を務めるカルロス・ベンソンと申します。では、そちらの方がニコラス様のお子であらせられるジョナサン様ですか。……確かにニコラス様の小さい頃に面立ちがよく似ていらっしゃる」
カルロスは目を細めてジョナサンを見つめ……我に返った。
「これは失礼いたしました。遠路はるばるお越しいただいたのに、いつまでも中にお通しせずに申し訳ございません。どうぞ、お入り下さい。お荷物は後で使用人に運ばせますので」
「「「ありがとうございます」」」
3人は声を揃えてお礼を述べる。
「ではご案内いたします。どうぞこちらへ」
カルロスは笑みを浮かべた――
****
眠りに就いたジョナサンをベビーカーに乗せると、3人は応接室に案内された。
「どうぞお掛け下さい」
カルロスに促されて全員が着席すると、すぐにメイドがお茶を運んで来た。
「失礼致しま……え? も、申し訳ございませんでした」
紅茶を置こうとしたメイドが一瞬ジェニファーの顔を見て驚きの表情を浮かべ、慌てた様子で足早に去って行った。
「皆さん、お疲れでしょう。どうぞお茶をお飲みください。疲労回復効果のあるハーブティーを淹れさせましたので」
カルロスが笑顔で3人に話しかけるも、ジェニファーは先ほどから気がかりなことがあった。
(今の人……私を見て驚いていたみたい。多分ジェニーはこの城に来たことがあるのだわ)
そこでジェニファーは思い切って尋ねることにした。
「あの、カルロスさん。ジェニーはこの城へ来たことがありますか?」
「ええ、ございます。結婚式を挙げてすぐに新婚旅行としてこちらの城に一月ほど滞在されておりました。とても愛らしい方で、誰もがジェニー様を大切に思っておりましたよ」
笑顔で答えるカルロス。
「そう……ですか」
ジェニファーもその言葉に笑顔で頷くも、心境は穏やかではなかった。
(このお城でもジェニーは皆から大切に思われていたのね……だったら、ここでも私は憎まれてしまうのかも……)
不安な気持ちを押し殺しながら、ジェニファーは紅茶を口にした――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます