3-1 懐かしの土地『ボニート』

 翌日15時――


 丸1日かけた汽車の旅は終わり、ジェニファー達は『ボニート』の駅に降りたった。


「まぁ……なんて素敵なところなのでしょう! 山があんなに近くに見えるわ! それに素敵な町並みですね、そうは思いませんか? ジェニファー様」


駅舎を出ると、目の前の光景に興奮した様子でポリーがジェニファーに話しかけてきた。何しろ、彼女は『ソレイユ』地域から出たことがないのだから無理もない。


「そうね。とても素敵な町よね。……懐かしいわ」


ジョナサンを腕に抱いたジェニファーが返事をすると、ポリーは首を傾げた。


「え? ジェニファー様はもしかしてここへ来たことがあるのですか?」


「ち、違うわ。何となく懐かしい町並みに思えただけよ」


自分がかつて、この地でニコラスと過ごしたことをシド以外に知られるわけにはいかなかった。


「確かに『ボニート』は観光地としても有名ですし、著名な絵画が沢山風景画を描いていますからね」


「そうですね。確かにシドさんの言う通りかもしれません」


シドの言葉に納得するポニー。


(ありがとう、シド)


ジェニファーは機転を利かせてくれたシドに心の中で感謝の言葉を述べた。


「では、今から辻馬車を探してきますのでジェニファー様はこちらでポリーと一緒にお待ちください」


「ありがとう、シド」

「ありがとうございます」


2人でお礼を述べると、シドは笑顔を浮かべて大通りへ向かった。その後姿を見届けていると、ポリーがジェニファーに小声で話しかけてくる。


「ジェニファー様」


「何? ポリー」


「ここだけの話ですけど、私最初はシドさんて怖い人だと思っていたんです」


「え? どうして?」


いきなりの話にジェニファーは少し驚く。


「だって、シドさんて騎士じゃないですか。それに最初の出会いの時、大勢の騎士達を引き連れてニコラス様に逆らった使用人達を捕まえましたよね」


「そうだったわね」


「あのとき、とても怖かったんです。それに何だか近寄りがたい雰囲気もあったし」


「そ、そうかしら?」


ポリーのシドに関する話は止まらない。


「そうですよ。無口だし、必要最低限の話しかしませんし……」


「……」


ジェニファーはポリーをじっと見つめる。


(そんなにシドって近寄りがたいかしら。私にはそうは思えないけど……確かに子供の頃の彼は無口な人だったけど、あの頃よりずっと話しやすくなったわ)


すると突然ポリーが笑顔になった。


「でも、それは私の思い過ごしだったみたいです」


「え?」


「シドさんて本当は、優しい人だったのですね。ジェニファー様にとても気を使っていますし、先程初めて笑った顔を見ました。ジェニファー様はシドさんにとって、特別な存在なのでしょうね? 同行してくれる方がシドさんで良かったです」


「ポリー……」


そこへ2台の辻馬車がこちらに向かってくるとジェニファー達の前で停車すると、

1台目の扉が開かれてシドが降りてきた。


「お待たせいたしました。ジェニファー様。辻馬車を手配したので、2台目の馬車に荷物を積み込みましょう」


シドは御者と手分けして荷物やベビーカーを詰め込むと、ジェニファーに向き直った。


「それではジェニファー様、ニコラス様の御実家へ参りましょう」


笑みを浮かべ、シドはジェニファーに手を差し伸べた――


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