闇の軍団

「光を司る悠久普遍にして唯一の女神ソラリス・・・その第六使徒、闇の公爵マルコシアスよ・・・立つがよい」


天使様が足元に傅くように跪礼する黒い男を促す。


「はっ」


日の届かぬ地下深く、全てが闇色の迷宮にあり僅かばかりの光を受けただけでこの世全てを照らし出さんばかりにあふれる美の化身が・・・・・ながいよね。


暗いトコじゃだれでも美男美女に見えるってのを超越した美少女が、怖いくらいの美少年・・・黒曜石のように輝く巻き毛と、禍々しい螺旋を描きながら闇へ伸びる山羊角・・・ながいよね。


「この世を闇のとばりで覆い尽くし、我が女神を岩戸奥へと閉じ込めた愚昧なる人間どもに闇の審判を下すのだ」


・・え?スオラ様て閉じ込められてるの??


御意マージェス


立ち上がる。



闇色の美しい男たち。

鬱蒼とした暗い森のように漆黒の六人が並び立つ。


その闇を纒うように、光の少女があたしを向く。



「下僕どんどんふえちゃうね。・・・あんたも要る?」


六対の凍り付くような視線があたしに向く。


「ひっ・・・・・要らな・・・いえ、そんな恐れ多い・・・」


下僕に殺される主人なんてマヌケだと思ってたけど、もう笑えないよ・・・


「てゆうか、天使様・・・悪魔なん・・・その、大丈夫なんですか?」


「なにがぁ?」


気だるげながらも、この世の全てに寛容を齎すような笑顔で天使様が問い返す。


目的語が無かった・・・


「その、光の女神さまに闇の眷属なんて・・・」


「え?・・・ああ、だって闇がなきゃ光なんてわからないじゃない」


ゾッとした。


「そして光は少なければ少ないほど・・・いや、自分一人だけでよい」


うふふ、と笑う天使様に総毛が立つ。


「・・・え、ちょっとなに怯えてんのよジョーダンだって!」


「かっ、はぁ・・・御身がその六人を背にのたまうと冗談どころか心臓が止まります!」


「あー、わかるわかるwwwあたしも若かりし頃”俺の女になりゃ守ってやるぜ・・・俺らからな”なんてチンピラにツめられてこの世の終わりを感じたもんよ・・・」


でも後ろのホスト達が凄いイケメン揃いで・・・などと呟きながらも現実感を失う程の矮小なエピソードを開陳してゆく天使様に、頭がくらくらしてくる。


なんで?ただの闇家業・・・女や子供を殴って金を集めるクズ共にいいようにされるしかない少女が、なんで闇の軍団の幕僚たちを侍らせてんのよ・・・


「あっ」


フラッ、としたところ何かに躓いて重い鉄の扉へ倒れ掛かる。


金臭い軋みを立てて、開く扉の内に倒れ込んでしまった。


「いてて・・・ひっ」


倒れ込んだ部屋はホールのように広く、その巨大な空間には地下にありて山のよう体躯の竜が鎮座していた。

黄色く濡れた虹彩に、黒く細い瞳。

禍々しいキバが覗く巨大な顎が開かれ、そこから迸る絶叫が迷宮を激震させた。


「町のチンピラから財ム・・・世界的宗教までやることはみんな同じよね、政治の基本よ。光あれ!」


天使様の声と共に、背後から光の矢が伸び、闇色の竜は消し飛ばされてゆく。


世界の終わりを感じさせた咆哮が、命を希うだけの憐れなすすり泣きへと変わってしまう。



「あんたも飼って・・・ああ、そう。めんどいな、んんっ。・・・ふふ・・・闇を統べ虚無の底に坐しながら未だこの世に未練があるか・・・されば我が元へ来るがよい」



山のような汚臭と腐肉のカタマリと化した竜が、黒く長い髪の少女へと変じてゆく。


「ああー、いいじゃん!ちょっと動かないで、レイヤーいれてくから・・・あたしとお揃いにしよ」


天使様は黒い少女へと屈み込むと、その手に銀に光る鋏と細い櫛のような・・・よく見ると歯間に刃がついている・・・煌めく銀の道具でつややかな黒髪に手を入れ始めた。


「・・・へっ?」


目の前に、湯気をほのかに昇らせるティーカップが花びらのソーサーに乗せられて差し出されていた。


太く骨ばった男の手の元を辿ると、耳が出る程度に刈られた頭髪の悪魔の一人が、取れ、とでもいうようにアゴをしゃくってくる。


「あ、ありがと」


ソーサーをとり、カップを上げる。


なにかの花の香がする。


ソーサーもカップも花弁をあつらえたような意匠で、その薄さ軽さと優美さに目が惹きつけられる。


こんな・・・こんなすごいモノでお茶なんか飲んでいいの?


てゆうか、お茶の香を味わうなんて家を追われて以来だ。


土や埃、垢や体液で汚れた自分の荒れた手との対比が落ち着かない。


こんな美しいモノ、人間が使って・・・・・


天使様を見る。


ああ、あの方が使うなら当然か。


・・・って、二人??

黒と白の天使様がいる・・・


「ユニアムぅ~、どう?」


天使様があたしを呼ぶ声と共にふたりがこちらを向き、共に肩を合わせながら中指と薬指の二指を折った手をカクリと外に倒しながら片目をしばたかせた。


「キラッ☆なんちてーww」


古かった?などとおっしゃるけどわかんないって!


「その、天界の雅楽舞踊の挙動などは皆目存じませんので・・・」


「ほへー、挙動といえば・・・ユニアムて結構いいとこのお嬢なの?」


振る舞いは庶民の男意識してますモードで馴染み深いんだけどコトバが固い・・・等々、豊かな語彙なのに軽佻浮薄、高貴なお姿にして目線が完全に平民の御評価を頂く。


黒より深い闇の色を背に、眩く薄金色に輝く天界の存在。


この御方は一体何者なんだろう。

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