おつきさま
おつきさま
帰り道、女が顔を上げると夜空に綺麗な月が浮かんでいた。
何て幻想的で綺麗な月だと、女は思う。
その月を見ながら女は夜道を独りとぼとぼと歩く。
余りにも綺麗で明るく、月明りだけでこの夜道を歩けるのではないか、女はそんなことさえ思ってしまう。
それほどまでに、夜空に浮かんだ月は明るく綺麗だったのだ。
女は月では兎が餅つきしている話を思い出す。
月の模様をじっくりと見る。
けれど、どこをどう見ても兎が餅つきをしているようには見えない。
それどころか月の模様が人の顔に見えだす。
まん丸の顔ではなく、月の丸い中に、模様でリアルな人の顔が、シルエットのように浮き上がっているように見えたのだ。
それに気づいてしまった女はドキリとして足を止める。
まるで、空に月の丸窓から、誰かがこちらを覗いているような、そんな感覚だったからだ。
女はしばらく足を止めて月を見る。
改めてみると、どう見ても人の顔に見える。
月からこちらを覗きこんでいる、そんなシルエットに見えるのだ。
なにかがおかしい、女がそう思った時だ。
辺りに音がない。
虫の鳴き声も、遠くに車が通る音も、何もかもが聞こえてこない。
シンッと静まりかえっている。
物音一つしない。
それに気づいてから女は月から目を離せなくなる。
理由はわからない。
辺りの様子を伺いたいのに、なぜか月から目を離せない。
そうすると、ヒタヒタヒタっと靴ではない、まるで裸足でアスファルトの道を歩くような、そんな足音が女の後方から聞こえてくる。
女は振り返りたい、足音の主を確かめたい、そう思っていたが、目線を月から離すことはなぜだかできない。
そうこうしているうちに、足音が女の真後ろまでくる。
足音の主は女に声をかける。
男とも女とも判断つかない奇妙な声だ。
今日はお月様が綺麗ですね、けど、こんなにもお月様に見られていたら悪いことは出来ません、と、声を掛けられたのだ。
そして、再び足音がしだす。
女から遠ざかるように聞こえだす。
しばらく女は月から目線を離せなかったが、足音が完全に聞こえなくなると、月から目線を外せるようになっていた。
女が深呼吸をして、再び月を見ると、綺麗ではあったが、女の記憶通りの月がそこにはあった。
だけど、やっぱり女には月の模様が餅つきをしている兎には見えなかった。
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