ばす
ばす
少女は通学でバスを使っていた。
その日は遅くなり、夕日が沈みそうな、そんな時間、少女がバス停で独りバスを待っている。
しばらくするとバスが来る。
少女は行き先も見ずにバスに乗る。
少女の行き先はどのバスでも行ってくれるハズだったからだ。
少女以外にバスに乗る者もいなければ、バス内にも乗車客はいない。
薄暗いバスの一番後ろの席に少女は座る。
なぜかバス内の電気はついていない。
外から差し込む夕日だけが唯一の明かりだ。
それに今日はやけに静かだ。
何とも言えない哀愁がバス内に満ちている。
オレンジ色と影の世界がバスと共に進んでいく。
少女はふとバスに設置されているバックミラーを見る。
なんとなく見る。
運転手は深く帽子をかぶっていてその顔は見えない。
帽子しか見えない。
そのまま少女は窓の景色を見る。
ほとんどがもう闇に覆われている。
もうすぐ完全に日が沈む。
そんな景色が目に入る。
そこで少女はなんで乗客が自分一人なのだろうと考える。
いつもなら、この時間でも乗客は乗っているはずだし、なんなら少女の学校の生徒もいるはずだ。
なのに、今日はバス停でも一人だった。
誰もいなかった。
少女は少し不安になる。
なにに?
わからない。
少女は漠然とした不安に囚われる。
そんな時に少女は目撃してしまう。
バス停に待っている乗車客がいたのに、バスは無視してバス停に止まらずに走り去ったのだ。
少女の不安が増す。
不信感が増す。
漠然とした何に対してもわからない、不安が増す。
今考えるとここまで静かなのはおかしい。
停留所の、バス停のアナウンスが入るはずなのに、それすら聞こえてこない。
影が、闇が、この世界を覆うように、不安と不信感が少女の心を覆っていく。
もちろん、バスの行き先が違っていたので、運転手と乗客で何かやり取りがあっただけなのかもしれない。
例えば、待っているお客が運転手と目が合い、一歩下がるとか。
そんなやり取りがあっただけなのかもしれない。
それに少女が気づかなかった、だけなのかもしれない。
ただもうすぐ少女の降りるバス停だ。
少女は降車ボタンを押す。車内アナウンスが鳴る前に、いや、鳴らないので、少女はボタンを押す。
ピンポーンと鳴り、ボタンが光る。
そうすると運転手が顔をあげて、バックミラーを確認している様子が少女には確認できた。
問題はその後だ。
運転手は首をかしげる。
そして、止まるはずのバス停でバスは止まらなかった。
当たり前だ。
バスの行き先はバスの車庫だ。
このバスは回送のバスでバス停には、元々止まらない。
どのバス停にも、停留所にも止まることはない。
このバスは少女が乗ったバス停でも止まっていない。
回送だから車内の電気もついていない。
アナウンスだって流れない。
では、何で少女はこのバスに乗れたのか。
それは少女にもわからない。
自覚がない。
少女には自覚がない。
運転手はもうもう一度バックミラーで社内を確認する。
そこには誰も乗っていない。
乗っていないのに降車ボタンが押されて、運転手の男は首をかしげるばかりだ。
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