ながい
ながい
男は酔っぱらっていた。
仕事帰りに同僚と酒をあおり、終電で何とか最寄り駅まで帰ってきていた。
けれども、男の酔いはまだまだ醒めない。
千鳥足でどうにか歩き、家を目指す。
もう深夜で日付も変わった時間だ。
いるはずもない。
けど、それはそこにいた。
曲がり角から、女が、美人が、顔だけ出して、ひょいっと顔だけを出して、男を覗き込んで居た。
男は酔いながらも、うるさくしてしまったか、と思い当たる。
そして、女にむかい、うるさくしてしまってすいません、と、しどろもどろの舌でそう言った。
女は、にっこりと笑い顔を曲がり角へとひっこめていく。
男はフラフラと歩き、その曲がり角まで行く。
女はもういない。
男はやけに美人だったな、そう思いつつも自分の家を再び目指そうとする。
だけれども、その時、気づいてしまった。
女が首をひっこめた先、その先にある曲がり角に、さっきの女がまた顔を、顔だけを覗かしていることに。
男が酔っていなければ、いくら何でもそんな場所まで移動している訳がない、そのことに気づくはずだ。
女が顔を覗かしている曲がり角はかなり先にあったのだから。
男は酔いながらも不振に思う。
こんな時間にあんな美人が顔だけを覗かして何をしているのかと。
注意してやらねば、と、男は酔っていたのでそんなことを思いつく、思いついてしまう。
男はフラフラと曲がらなくても良かった曲がり角を曲がり、その先の曲がり角まで足を進める。
男は近寄りながら女に声をかける。
お姉さん、こんな夜中に危ないですよ、と。
そして、男が曲がり角まで来た時だ。
酔いが一気に醒めるのは。
奥の曲がり角まで来て、男が見たものは、長い長い曲がり角の奥へと延びる、長い長い首だけだった。
女の体を曲がり角のその先に見つけることはできなかった。
男は一気に酔いが醒め、ろくろ首だ! と、声を上げる。
その言葉に女はニヤリと笑い、曲がり角の奥へと、闇の中へと、その長い首と共に顔を引っ込めて行った。
男も慌てて逃げ出す。
何とか家に帰りつき、玄関の戸をすぐに閉めて鍵をかける。
翌日、男が最初に女、ろくろ首を見た曲がり角を見る。
そして、気づく。
奥にもう一つ曲がり角が昨夜はあったはずだが、曲がり角自体が見当たらないのだ。
男は、昨夜の出来事をなかったことにした。
酔って見てしまった幻だったと思うことにした。
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