ちいさなひと

ちいさなひと

 女の部屋に小さな人がいた。

 それを人と言って良いのか、そう聞かれると答えに困る。

 どちらかというと人形、いや、ぬいぐるみ、そう言ったが適切な容姿をしている。

 どこかの地方のゆるキャラのような、そんな見た目で抱きかかえられるほどの大きさ。


 そんな小さななにかが女の部屋の中にいたのだ。


 抱きかかえられるほどの大きさ、とはいえ結構でっかい。

 ぬいぐるみぽい見た目とはいえ、どこか生々しい。

 それをぬいぐるみではなく、生き物として認識出来るくらいには生々しい。


 そんな存在が体育座りのような恰好で女の部屋の隅に座っていた。


 女は正直対処に困っていた。

 それを見たとき、すぐ部屋のドアを閉め、玄関から出て、考え始める。


 あれはなに?


 と。

 女はもう一度部屋に戻って、それを確認する。

 確かにそれはそこにいる。

 なんなら、動いていたりする。

 誰かの悪戯で置かれた人形やぬいぐるみではないようだ。

 

 女はとりあえず鞄の中にあった飲みかけのお茶、そのペットボトルをそれの近くに投げた。

 そうするとそれはペットボトルを拾い上げ、蓋を外して中身を飲み出した。


 訳が変わらない。


 だが、女がわかったことは、あれはそれなりに、ペットボトルの開け方がわかり、それが飲み物だと分かるくらいの知能を持っている。

 そのことがわかった。

 改めて、それを確認する。


 全身肌色だ。

 ゆるキャラでよくある様な点の目が二つ付いている。

 口もあるが、顔からするとかなり大きい。

 髪の毛はない。


 見方によっては、赤ん坊に見えなくもない。

 それは飲み終わったペットボトルを床に投げ出した。


 そして、点のような目で女を見る。

 女は反射的に部屋のドアを閉める。


 そうすると、アァアァアアアァという鳴き声と共にドアをバンバンと叩く音が聞こえてくる。

 女は見た目に反して、危険なのかもしれない。

 そう思うことにした。

 しばらくドアを叩いた後、静かになる。

 女がそっとドアの隙間から部屋の中の様子を伺う。

 それは部屋の隅っこに戻っていた。


 女はスマホのカメラを起動して部屋に手だけを突っ込んで動画を撮る。

 それに気づいたそれが再びよたよたと立ち上がるので、女は急いでドアを閉めた。

 そして、警察に電話をする。


 すぐに警官が来て部屋の中を確認してくれるのだが、女の部屋には投げ捨てられたペットボトルがあるくらいだった。

 それ以外は普段の女の部屋と変わりがない。


 警官に見間違いでは? と言われ、女は撮った動画を見せる。

 そこには奇妙なぬいぐるみなような、妙に生々しい存在が立ち上がり、よたよたと駆け寄ってくる姿が確かに映っていた。


 警察も神妙な顔をしだし、アレでは? と言い出した。

 アレとは? と女が聞くと、今日はホテルに泊まってください、と言われ、ホテル代まで渡された。


 女はその日、言われるままホテルに泊まる。

 一泊して、警察と共に自分の部屋へと帰ると、部屋は大分荒れていた。

 そして、警察にもう危険はありません。

 とだけ、言われた。

 部屋があれている理由も警察は結局教えてくれなかった。


 女はアレってなんだったんですか? と警察に聞くと、警察は知らない方が良い。

 詳しく知ってしまうと、あれの仲間がやってきます、と言われて、女も聞くのをやめた。


 あれがなんだったのか、未だにわからないが、それ以降あれに会うことは女はなかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る