としょしつ
としょしつ
少女は図書委員だった。
その日は少女の当番であり下校時刻まで図書室の受付に座っていた。
ただ図書室には誰もいない。
なので、少女も受付で本を読んで暇を潰していた。
友達と遊ぶ方が楽しくはあるが、少女は本を読むのも嫌いではない。
委員の仕事ではあるがそう頻繁にあるものでもない。
だから、少女はこの仕事が嫌いではなかった。
少女が読書にふけっていると、生暖かい風が顔にかかる。
顔を上げると図書室のドアが開いている。
音もなくドアが開いていた。
不思議に思いつつも少女は受付の席から立ち上がりカウンターから出て、開いているドアを閉める。
そして、図書室を見回す。
パッと見た限りでは人はいない。
自分が読書に夢中になっている間に、誰かが入って出ていったのかもしれない。
少女はそう思い図書室の受付に戻る。
読んでいたほんの続きを読もうとしたときだ。
奥の本棚から物音がする。
ドサっと。
何かが落ちるような音だ。
少女はやはり誰かいたのかと、音のした方へと向かう。
そこには床に一冊の本が落ちている。
ただその本は少女の見たことのない本だった。
黒と赤の中間くらいの色の表紙の本で表紙は妙にごわごあとしている。
タイトルも見たことのない文字で書かれている。
奇妙に思いながらも、少女は本を開いて中を見て見る。
そこには見たこともない文字で書かれた、恐らくは文章らしきものが書かれている。
少女は不気味なものを感じすぐに本を閉じる。
少女は本が落ちていた近くの本棚を見る。
前も後も低いところも高いところも見る。
だが、どの本棚もびっしりと本が入っており、この本が抜け落ちた場所などない。
仕方なく後で先生にでも渡そうと、その本を持って受付の席へと少女は帰る。
少女が受付の席に座り、少し目線が下を向いた時だ。
視界が暗くなる。
少女が顔を上げるとそこには一人の男子生徒が立っていた。
顔が妙に青白く感情のない表情で受付に、少女の前に立っている。
少女はびっくりするが、男子生徒に、本の貸し出しですか? と声をかける。
そうすると、男子生徒は声を出さずにゆっくりと頷く。
男子生徒が手に本を持っていなかったので、どの本を? と少女が声をかけると、男子生徒はゆっくりとさっきの読めない文字で書かれていた本を指さした。
少女がその本を手に取り、受付の机の上に置く。
この本でよろしいですか? と少女が聞くと、男子生徒はゆっくりと頷く。
少女はその本の裏表紙を開く。
そこに張ってある貸し出し履歴の紙に、今日の日付のスタンプを押す。
そして、男子生徒にむかい、貸出期限は一週間です、と声をかけるが、男子生徒の反応はない。
代わりに生徒の学生書が提示される。
それを少女は機械でピッと読み込む。
本の裏表紙に張られているバーコードもピッと読み込み手続きを終える。
そして、本を男子生徒に手渡す。
本を受け取った男子生徒は無言で去っていく。
その時は少女は気づけなかったのだが、本を受け取った男子生徒はすいーとまるで床を滑るように移動していった。
もし少女が受付のカウンター内にいなければ、足を動かさずに動く男子生徒の姿を見て悲鳴でも上げていたかもしれない。
男子生徒が図書室のドアを開き出ていく。
ドアは開けっ放しのままだ。
少女は軽くため息をつき、ドアの前まで行く。
そして、驚く。
確かに図書室は校舎の端に作られているため、図書室の前には長い廊下が続いている。
だが、今少女がドアから見た光景はそんな物ではない。
まるで合わせ鏡の世界のように、少女が見る限り延々と廊下が続いていた。
少女は廊下に飲み込まれそうになりなり、慌てて図書室のドアを閉める。
そして、一息ついてからドアをゆっくりと開ける。
そこには普段通りの長い廊下が広がっていた。
そこでちょうど、下校時刻のお知らせの放送が鳴り響き始める。
少女は急いで帰り支度をして、図書室に鍵を閉めて逃げる様に帰宅した。
それから、少女はもう図書委員になることはなくなった。
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