蝶よ花よと育てられたのね

「お姉っちゃん! 見て見て、またママが買ってくれたの」


 そう言って妹は、わたしが欲しいものを見せた。


「お姉ちゃん、買って貰えなくてかわいそ! やっぱりさ、ママの言う通り、"出来の悪い子"は与えられないんだから、お姉ちゃんも頑張ってね」


 妹の精一杯の励みの言葉は、少しひねくれていて、母の思想を受け継いだものだと実感する。受け継ぐことができなかったわたしが母から淘汰されるのは当然のこと。


 自分に思想が似ているものを好み、異なった価値観を持つものを排除する。妹だけを愛でて、わたしには形だけの世話をする。わたしを、可哀相だと、不当だと思う人間も在るだろう。ただ、わたしはもう母に愛でられることを嫌悪してしまうから、妹が不憫で不憫で仕方なくなる。


 自分が受けた子育てを、そのまま我が子にする人がほとんどだと言う。母はきっと、区別される子育てを受けたのであろう。どちらの立場かは知る由もないが。


「お姉ちゃん? どうしてそんなに行動しないの? ママに睨まれちゃうよ。わたしママには笑ってほしいんだけど、お姉ちゃんはそう思わないの?」


 親に無駄に甘やかされて育った人間が、大人になれる気がしないのは、わたしだけだろうか。程よく愛でられるのは非常に快いものではあるが、妹に対する母のそれは、過剰であるように感じてしまう。


 それでも母に愛でてほしいと偶に思ってしまう自分に、反吐が出そうになる。

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【掌編集】非日常となる 飛花 @shil2o

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