光さす方へ

黒川 賽

第1話 はじまりは2度目から

私は、二度死にかけた。

1度目は5歳の時。

寒い寒い冬の夜だった。

月も星もない濁った群青色の空。

アパートのベランダ。冷たいコンクリートの床。

白い塗装のはげかけた鉄の柵。

凍るような寒さに震えていた。

どの指も、かじかんで

白い息は、だんだん薄くなった。

なんか、すごくお母さんに会いたかった。

それで終わり。

2度目に死にかけたのは覚えてないの。

でも、最近なんだって。

お母さんが教えてくれた。泣いてた。

自分で腕を包丁で切りつけたって。こわ。

どうりで、腕にボコボコとした赤黒い縫い目がある。

押すとまだ痛い。傷、残るよね…

つまりね、5歳の冬から

今の17歳まで記憶がないの。

でも、おかしいの。

私、ちゃんと生きてたってよ。

それに、字も書ける。もちろん読めるし。

話し方だって、5歳じゃなくない?

じゃあ、どこにいったの?

12年間の記憶。


お医者さんによると、一時的な……記憶喪失?みたいな。


でも、悪い気分じゃない。

私、だいぶおかしいとは思うんだけど、頭の中で声がするんだ。

それが、ちっとも怖くない。

幻聴だって言われるけど、耳から聞こえるのとはなんか違う。頭の中で声がする。


ほんと私、どうなってんだろう?







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