第63話 水の神殿の神官

「ここが水の神殿です」


 俺たちはボートを操るボーガンに案内されて、とある場所に降り立った。目の前には地下に降りる階段がある。


「ここが? 階段しかないけど?」


 火の神殿はギリシャにあるパルテノン神殿のような神殿だった。でも俺の目の前には石造りの階段しかない。想像とは違ったので俺はボーガンにそう尋ねてしまった。


「ええ。水の神殿は地下にあるんです。ここを降りていった所にあります」


 なるほどな。別に地上にあると決まった訳でもないか。よくよく考えれば俺には契約さえ出来れば問題無いし、何処に神殿があろうと関係はない、か。


「なるほどね。火の神殿と違ったからわからなかったよ。案内してくれてありがとう。それじゃ行ってくるね」


 俺はボーガンにそう告げて目の前の階段を降りていった。俺の後を付いてアリアとクリムゾンも降りた。


 何十段か降りると階段は無くなり少し広めの広場になった。石でできたその広場はバスケットコートの半分くらいの広さだろうか。高さは二メートルは超えているだろうがそれほど高くはない。地下だから大きな空間は取っていないのか、取れていないようだった。その奥に部屋の入口が見える。恐らくそこが神殿の入口なのだろう。俺は自然とそこに向かって歩いていった。


 中に入るとそこは大きな空間になっていた。体育館くらいの広さと天井があるその空間の一番奥は高台になっていて、そこに一つ玉座のような椅子が置いてあった。

 そこに白いローブを着てフードを目深に被った人物が座っている。恐らくその人物が神官なのだろう。精霊との契約をするにはその人物の許可を得ないといけない。少し気が重いが周りには白いローブを着ている人たちしかいない。多分、神官に仕える人たちなのだろう。火の神殿でもそうだった。その内の一人が俺に近づいてきた。謁見の許可を取ったりするのだろう。


 と、その時、玉座のような椅子に座っていた神官が立ち上がって叫んだ。


「お! お前は!」


 狼狽えながらもその神官はフードをバサリと除けて顔を顕にした。その顔は見覚えのある顔だった。


「あ、フランク!」


 同じく見覚えのあるアリアが声をあげた。そう、その神官は火の神殿で会ったフランクだった。つまり、火の魔法をクリムゾンに使えなくされたフランクは、ここに辿り着いて水の精霊と契約をした。そしてその力で水の神殿の神官になったということだった。


「くそっ! ここまで追ってくるとは! 俺になんの恨みがあるんだ!」


 フランクは盛大な勘違いをしている。そもそもここにフランクがいるなんて微塵も思ってない。追う理由もないし、ありえない。


「は? 恨みも何も俺はお前がここにいるなんて知らなかったぞ? だいいち、恨みなんてあるはず無いだろう。お前は俺に何もしなかったんだから」


 そう、不快には思ったがフランク自体は俺に全く危害を加えていない。いや、危害を加えることが出来なかったというべきか。アリアを見ると敵意を剥き出しの表情をしている。そりゃそうか。あの時も色々あったしなぁ。

 で、クリムゾンは。あ、こいつフランクのこと覚えてないな。全く意に介してないって表情をしてる。というか、多分覚えてない。お前がフランクの精霊の契約を強制解除したのになぁ。そう考えるとフランクは逆に可哀想なやつかもしれない。クリムゾンのせいで火の神殿から追いやられて、この水の神殿に来ることになったんだ。その張本人が覚えてすらいないんだもの。

 まあ、その原因はフランク自体にあるから自業自得か。


「じゃあ何しに来たんだよ!」


 フランクはイラつきを隠すことなどしない。だが周りにあたったりはしないのは俺たちだからか、それとも少しは反省しているのか。でも、評判は悪いんだよなぁ。


「何しにって水の精霊と契約しにきたんだよ、それしかないだろ?」


 俺はフランクの言葉にそう返した。するとフランクは少し鼻で笑ったような様子を示した。


「馬鹿か? 一人一つの属性の精霊しか契約出来ない。お前に出来るはずはないだろう」


 ま、確かにフランクの言う通りだ。それは普通の人間ならば・・・・・・・・だけども。俺のステータスなら複数の精霊と契約することも可能だ。でも、そんなことをフランクに言う義理などないし、それを信じるとも思えない。


「まあやってみなけりゃわかんないだろ?」


「勝手にしろ!」


 俺の言葉にフランクは再度深くフードを被って、不機嫌そうにどかっと椅子に腰かけた。と、同時に近くの白いローブを着た人物が俺を招いた。どうやら契約の魔法陣がある場所まで案内をしてくれるようだ。

 俺たちはその人物の後を付いて、左奥にある扉に向かって行った。

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