9.8.獣人たちとの交流
自分よりはるかに背の高い獣人を見上げていると、獣人はこちらを見下ろしてくる。
やはり自分より大きな存在は少しだけ怖い。
ましては人間とはまったく違う種族なのだ。
だが恐怖とはその存在を知らないから感じるものだ。
未知だったものが理解できれば恐怖は減るし、知らないことを知ることができれば文句はなくなる。
アオは興味深そうにロウガンを見ていた。
彼もこの子供が村のリーダー的存在であるとわかっているようで、暫くすると膝を折ってできるかぎり視線を合わせた。
「どうした」
「獣人たちの事は勉強したことがあります。少し気になっていたのですが、どうして力の強い獣人が人間に屈してしまったんですか?」
「魔法は強力だ」
「少しお話ししません?」
「時間はある。長同士が下の者に示す機会にもなるだろう」
双方が頷いたあと、その場に座り込んだ。
後ろにいた刃天はその辺の木に背を預けて目を閉じた。
このままの姿勢で話を聞く気のようだ。
「僕はアオです」
「ロウガンだ。衣笠からは俺たちの力を使って何かしようと考えていると聞いた。アオは何を企んでいる」
「僕の最終的な目標はダネイル王国への復讐です。もう少し細かく言えばダネイル王国のゼングラ領にいる現領主は、僕たちに冤罪を吹っ掛けて……」
「大体分かった。辛い話を掘り起こす必要はない」
「……ありがとうございます」
見た目の割に優しい一面もあるようだ。
遠くから聞いていた刃天はそんな感想を抱いた。
「……獣人たちは人間によって根絶されたと聞いています。歴史書には人間の都合のいいようにしか書かれていないので、僕はその通りにしか話せないんですが……。その原因が獣人の反旗によるものだとされています」
「結果だけで経緯が記されてはいなさそうだな。俺たち獣人は百年前、人間と共存していたのではなく一方的に使われていた。奴隷のような形でな」
彼も思い出したくない過去だ。
だからアオも自分からは聞かなかったし、ロウガンもこれ以上話すつもりはなかった。
「ま、俺たちは仲間探しをせねばならん。まだ他にも生き残りはいるだろうしな。ここをその拠点として使わせてくれたら、俺たちはそれでいい」
「受け入れる事は可能です。ですが……」
「怖がるのは無理ねぇよな。ここは俺たちの努力次第だ。あんたらになにか求めることはしねぇよ」
「ありがとうございます」
ロウガンはスッと顔を背け、二人の獣人をみた。
どちらも犬の獣人で険しそうな表情をしたまま周囲を警戒している。
「あの二人だけは気にかけてくれると助かる」
「なにか懸念が?」
「他の七名は説得できたのだがな。あの二人だけは強く反対してた。親を殺された恨みが拭えんのだろう」
二人の過去は簡単に予想できた。
だがそれが足枷となっているのであれば、鎖を切る事は非常に難しいかもしれない。
アオは悩ましげに喉をならした。
「僕たちの村で貴方たち獣人を阻止できる人はほとんどいません。気にかけられるかどうか……」
「こちらも十分注意するつもりだ。だが万が一ということもある。この共存が成せなくなれば、我々はいよいよ行き場を失い、衣笠が差しのべた手を払う結果になる。それだけは避けなければならん」
「僕たちも、貴方たちの力が必要な時が必ず訪れます。その為にも信頼し合える関係構築が必須です」
目的を理解している者同士であれば、ここまで簡単に話し合いをすることができる。
だが感情を優先してしまう場合は、それが邪魔をして話は全く進まなくなるだろう。
必要性を感じて承諾している者もいるが、そういった者たちは己を御すことができる。
なのでそこまで心配はしていない。
ロウガンはため息をついた。
実力で上に立った者が理屈で話をすると、こうも反発されるとは思っていなかったのだ。
気苦労が伺えたので、アオは少し話を変えることにした。
「そういえば、貴方たちのことを僕はよく知りません。何を食べられるんですか? 好物とかあったり?」
「んん? 俺たちは肉食系の獣人だ。とにかく肉があればなんでもいい。三日程度であれば食わずとも問題ないが、毎日食べられるに越したことはないな」
「そこまで困窮していないので安心してください。えっと、お肉以外も食べますよね?」
「そうだな。大体なんでも食べる」
それを聞いて少し安心した。
確かにこの村の食料に肉は多く含まれているが、ほとんど刃天が獲ってきてくれたロックブレードベアの物で、大変高価なものなのである。
村民にも人気な食料なので優先的に獣人に分配するというわけにはいかなかった。
不平不満が出てしまえば、この関係に亀裂が走る原因となる。
それに、この村も安定してきたとはいえ食料のレパートリーは少ない。
作物がないというのが一番の問題だ。
これを今から解決していく予定なのだが……努力が実を結ぶのには年単位の時間が必要だろう。
これから増えるかもしれない村人の事を考えても……食料の収穫量は増やしていかなければならない。
「ではそちらの方面を重点的に手伝おう。畜産はするか?」
「木々が邪魔で土地を確保できないので今は考えていません」
「そうか。では早速向かおう」
「場所はあっちです。僕も付いていきますね」
「助かる」
二人はそう言って立ち上がり、伐採が進んでいた敷地へと向かって行った。
刃天もこっそりそちらへと付いていく。
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