8.3.冬の終わり
凍えるような冷たい風は相変わらず木々の間を通り抜けているが、雪は次第に溶けてきたように思う。
山の麓は既に雪がないのではないだろうか。
水気を含んだ大地は幾らか凍っているが、これを見るのもあと少しだろう。
冬の間にこの村は大きく変わった。
まずパッと見て分かるのは古い家屋が取り壊され、新しい家屋が建てられたということ。
ログハウス式の家屋がメインで、全てに越し屋根が造られている。
だが他にも加工された柱と板材で建てられた家も一軒あった。
これを建てるのは大変苦戦した。
数の少ない釘を節約しながら板材を壁に使用しなければならなかったので、大工はもちろんアオやディバノも腕を組んで考えていたように思う。
そこで役に立ったのは刃天の中途半端な知識である。
日ノ本では釘をほとんど使わず家を建てる、と教えたところ素人ながらにも組子を考え始めた。
柱はどうするか、屋根はどうするか、壁はどうしようかなど大変長い時間がかかってしまったが……。
一応形にすることは成功した。
とはいえ若干不格好ではある。
初めての試みだったということもあり、立派なものではないが一応人が住むに問題はない造りになった。
課題が次々に出ては来るが、これも釘があれば解決できる。
だがまぁ、いい経験にはなっただろう。
結果としてログハウス式の家屋は全てで九軒建てることに成功し、製材を使った家屋は一軒。
計十軒の家屋を建てられたというのは誉めるべきところだろう。
その代わり家屋は大きくないが、これで寒さに凍えることなく越冬できた。
食料事情も安定し、住居も衣服もなんとかなった。
これで生活水準は大きく高まったと言えるだろう。
食料が安定したことにより村民の体つきはよくなり、建築という肉体労働によって身体が鍛え上げられた。
追加で鍛練を行っている者たちは更に磨きが掛かったように思える。
筋肉量だけで言えば刃天に勝る者も数名居るようだ。
鍛練にはディバノお付きの騎士二名が。
調理や生活の諸々をチャリーが担当してくれたお陰で、男女問わず村に大きく貢献できるようになってきた。
そしてこの数ヵ月で村の重鎮が決まった。
まずはアオ。
彼が居るからこそ村が維持されており、家屋を建築するのも大きく貢献した。
水不足の解消というだけで村民の心を鷲掴みにしたはずだったが、今ではそれ以上の存在となっている。
次に刃天。
村民に喝を入れて奮起させたことが信頼を得ている大きな要因らしい。
特に食料問題に関しては気まぐれで狩ってくる動物たちで貢献している。
本人曰く特に貢献しているつもりはないようだ。
あとは剣術指南……といいたいところだが、彼はなにも教えず見せるだけ。
チャリーやクティから稽古を受け、刃天に挑むというのが最近は多いような気がする。
身体が鈍らないので、刃天としてはありがたいと思っているらしい。
次にディバノ。
まだ目立った活躍はないが、彼の知識は村が大きくなったときに重宝される代物だ。
それでも開拓に関わるのは楽しいらしく、様々な文献を漁って得た知識を村民に共有していたりする。
今後に期待できる逸材だ。
いつも後ろに引っ付いているトールはディバノのサポート役だ。
彼の活動も今後に期待である。
あとはチャリーと騎士二名。
チャリーは女性陣からの信頼が厚く、騎士二名は男性陣から人気がある。
これまでの活動的に接触する時間が長かったためだろうが、騎士二名については男性陣の下心も何度か確認できた。
だがその程度なので特に気にすることもないだろう。
最後にラグムたち若い衆の三名。
元より村の方針を任せていたということもあり、彼らは率先して村の開拓に勤しんでいた。
行動力もあり人気もある。
今も昔も彼らが先達のを反対する者はいない。
もと居た村民の中で最も腕っぷしもよいことだし、彼らには今後も様々なことを安心して任せられそうだ。
「鳥が増えたな」
まだまだ冷え込むが、最近は鳥のさえずりをよく聞いた。
なかなか心地のよい声を届けてくれるので、刃天は嫌いではなかった。
だがそれに混じって嫌な気配を感じとる。
所々に雪は残っているとはいえ、麓は馬車が余裕で通れるだけの道幅があるだろう。
「ついに来たか」
刃天はこの事を知らせるため、踵を返して村に戻った。
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