8.2.建築開始!
昨晩は酷く冷え込んだが雪が降ることはなく、ただ地面が凍結しただけに留まった。
子供たちは楽しんでいるようだが、大人や老人は慎重に足を動かしている。
そんな様子を見て鼻をならした刃天は、スタスタと歩いていく。
この程度であれば普通に歩けるというもの。
村民からの挨拶を軽く流しつつ、昨日行っていた準備の続きに取りかかる。
「確か……。ああ、これだこれだ。ここから先だな」
手斧を持ち、木の根っこ目掛けてそれを振り下ろす。
裂け目を更に広げて目立つようにし、これを目印とした。
アオが木材の水分を抜くことができると分かった今、刃天は建材の選定に追われていた。
丸太のまま使用する木々と、加工して柱にする木々。
刃天はこれを昨日から選んでいた。
巨木は加工することにし、ある程度細い幹の木々は丸太のまま使用することになった。
この世界は石材を使った建築が多く、それを得意とする者たちが多いようだが……。
残念ながら今この村で石材を採掘するには不可能だ。
鉱物を溶かす炉もないので、鉄を使用した武器も作れない。
まだまだ課題が多いのがこの村の現状である。
とはいえ文句を言っている暇もないし無い物ねだりをしても仕方がないので、今できることに全力で取りかかる。
ログハウスは大量の丸太を使用するので切り倒す数も馬鹿にならない。
冬が去り、水売りを返り討ちにした辺りで板材を使った家屋も試してみたいものだ。
「大きなノコが必要だがな」
そう呟きながら、手斧で根っこに傷をつける。
とりあえずこれだけ切り倒せば二軒くらい建てられるだろう。
この木々が伐採された地域は今後畑になる予定だ。
そのため、切り株を除去しなければならないわけだが……これも大仕事だ。
なんとか耕せればいいのだが、幸い木々の間隔は広い。
時間を掛けていけばまま何とかなるだろう。
さて、一応刃天の仕事は終わった。
踵を返して若い衆を呼びに行こうとしたのだが、戻ってみると既に集まっており木の根に刻まれた目印を確認している様だ。
とはいえ二種類だけなのでそんなに難しいわけではない。
ただどこに運搬するかを確認している様だ。
「あっ。刃天さーん! おおーい!」
「聞こえている」
元気に手を振ったローエンは、肩に斧を担いでいるようだ。
やる気は充分なようでなんだかソワソワしている。
急がなくても木々は逃げないというのに。
彼はこちらに近づいて来て笑顔を見せる。
刃天は相変わらず平静を保っていた。
「どっちに向かって森を切り開けばいいですか?」
「向こうだ。下り坂になっている方が都合が良いのでな」
「分かりました! では行ってきます!」
ローエンはすぐに走り出し、一番奥の方にある木から切る予定らしい。
終わりが見えた方がやる気に繋がる……といった考えがあるようだ。
細い木々であればすぐに切り倒せるだろうし、思ったよりも早い段階で作業は終わってしまうかもしれない。
ローエンが走り出したと同じくらいのタイミングで、他の者たちも作業に取り掛かり始めた。
今度は木材を無駄にすることはない。
アオが全ての木材の水分を抜いてくれるので、最も良い品質で丸太を使用できる。
これを売ればそこそこ儲かるのではないだろうか。
そんなことを考えながら、刃天はアオのいる場所へと戻った。
◆
凍った地面をザクザクと踏みしめながら戻ってみれば、外で二名の騎士が素振りをしていた。
テナは元気に挨拶をしてきたが、クティは『フンッ』と言いながらそっぽを向く。
まぁあれだけ思いっきりビンタしたのだ。
恨まれていてもおかしくはない。
騎士というのは自尊心が高すぎて困る。
武士も似た様なところはあるが……さすがにここまで子供の様ではなかったはずだ。
だが今回は突っかかってこなかった。
であれば声を掛けられる前にアオたちがいる家の中へとお邪魔することにする。
扉を開けて入ってみれば、アオとディバノが外に出る準備をしているところだった。
「なんだ、今出るところだったか」
「あ、刃天。そうだよ」
「おはよう刃天さん!」
「おう。ディバノはどこに向かうつもりだ?」
「僕は建築予定地と、アオが作ってくれた湖。水路の道筋も考えておきたいから」
「ほう。先を読むか。なかなかやるではないか」
珍しく刃天が褒めてくれたということに気付き、ディバノは胸を張って鼻を鳴らした。
森を切り開けばそこは畑になる予定だ。
畑に流すための水……つまり水路を作る場所を下見に行くつもりらしい。
畑などまだまだ先の話だが、その先を見据えて行動するというのは評価できた。
先を読むことができなければ、死ぬことも多いのだから。
そしてなぜかディバノの後ろでトールが誇らしげにしている。
彼は無視でいいだろう。
「ではディバノ。次の建築場所を見繕っておけ。まだまだ足りぬのだ」
「その予定だよ。でもログハウスだけじゃ限界があるよね……。細い木を遠くまで切りに行かないといけない……」
「巨木から板を作れぬだろうか」
「えーっとね……。細い木からも板材は作れるんだ。細長い板をたくさん作って重ねれば壁になる。でもその代わり、釘が大量に必要なんだよね」
「ああ、なるほどな?」
それであれば大きな鋸はいらないし、巨木をわざわざ切り倒す必要もない。
だがこれらを使用するのに必要な釘は不足している。
こういうとき、やはりあの鷹匠がいれば……と思ってしまうのは刃天の悪い癖だ。
頭を軽く振るって考えを吹き飛ばす。
「まぁ、今はできる事しかできねぇか」
「そだね~。じゃ、行ってくるね! トール、行こ!」
「承知いたしました」
二人が出ていくと同時に、アオと刃天も家を後にする。
こちらは伐採作業場所へ向かう予定だ。
切り倒した木の水分を抜き取り、すぐさま使える様に準備するのがアオの仕事である。
しばらくはこの繰り返しになりそうだ。
その間刃天は暇なので、また山で狩りでもしてこようかと思いながら目的地へと向かった。
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