初日
「これが大体の作業内容なんだけど質問とかある?」
「いえ、特に無いです」
「そう、やっぱり若い子は吸収が早くて助かるわぁ、もし分からない事があったら聞きに来てね」
そう言って面接をしてくれたお姉さんは社務所の方へと向かった。
応募の電話をかけた次の日に面接。神社という神聖な場所でのバイトなど初めてだったのでどんな質問をされるかと緊張していたが、軽い雑談をしてその場で採用を言い渡された。
「いつから来れそう?」
「いつでも大丈夫です!」
「それなら今日から働こうか、服装はそのままで大丈夫だから着いてきて」
『いつでも』とは言ったがまさか即日とは…と面食らいつつ、面接官の後ろに続き神社の案内を受けた。
この七之神神社はすごく大きい訳では無い、鳥居を抜け参道を数十メートル歩けば拝殿があり、その奥に大きく立派な本殿がある。社務所は拝殿から少し離れた場所にポツンと建ち、御守りやお札などの縁起物が売られている。
所謂『大晦日だけど遠くに行くのは面倒だから、近場にあるアソコに取り敢えず行っとくか』と軽いノリで提案するくらいの規模だ。
そんな規模でも業務は多く、境内の掃き清掃に手水舎のゴミ拾い、拝殿の拭き掃除に社務所での事務の手伝いと思った以上に目まぐるしい内容だった。
「何か分からないことがあったらかぁ……まぁ今日は参道の掃き掃除くらいだし特に問題は無いか」
私は渡された竹箒を持ち、小銭でも落ちてないかと思いつつ掃除を始めた。
黙々と竹箒を振り数十分くらいたった頃だろうか、後ろから下駄特有のカロカロと言う音がした。参拝客か?それにしても下駄なんて珍しい、今時普段履きしてる人なんてめったに見ないもんな等と思い振り返ると丈が短めの赤い着物を着た、可愛らしい少女が居た。
成人はしてないであろう幼めの顔つき、歳は十代半ばか少し上か。身長は下駄の高さ含めて私よりも少し低いから150cm前半、少し暗めの緑髪を左右高めにツインテールお団子結び。
ここまでなら髪色が派手な普通の少女なのだが頭部に角が生えている、ちょうどお団子内側?頭の天辺寄り?に2本、細めの枝分かれした角である。
「よほー、掃除は進んどるかのぉ?」
「よほー?えぇ……まぁ時給程度には…へへ」
私が角を凝視していると少女は挨拶?をしてくれたが何とも歯切れの悪い返答してしまった。
「もー!そんな緊張せんでええんよぉ!見ん顔じゃから気になって見に来ただけなんよ、何も取って食ったりはせんからぁ!ところでお主にゃあ‘コレ’見えとるんかのぉ?」
少女は広島訛りのある口調で自らの頭部に生えている角を指差し聞いてきた。
「見えてるって……つむじの事ですか?この位置からはちょっと見えないですね」
何故か嘘をついてしまった。はっきりと2本の角は見ている、だけど何故だが『はい見えています』と答えてはならない気がしてしまい、おどけた回答をしてしまった。
「ふーん……そうか、ならええんよ。ほいじゃあ引き続き掃除頑張ってつかぁさいのぉ」
少女は手を軽く振りながら本殿のある方へ歩いていった。
「それはきっとうちの神社の神様よ」
「神様!?神様ってあんなはっきり見えていいんですか?」
「そうねぇ、私ははっきりと見たこと無いから断言は出来ないけどもいいんじゃないかしら?なんかお得感があるじゃない!」
「お得って……」
少女が消えてから少しした後にお姉さんが勤務終了の知らせをしにきてくれた。そして社務者の中で先ほどの事柄を話すと嬉々として教えてくれた。
かなり昔に村では雨が降らず困っていたんだとか。その時、空から龍が舞い降りて『若い娘を1人差し出せば雨を降らしてやろう』と言ってきたそうだ。村人達は誰を差し出すか悩んでいた所、自らの志願した娘がいた。
その娘の名は『七之神えびす』。
彼女を龍に捧げた次の日から村には雨が降り始めたんだとか。
村人達は彼女の犠牲と感謝を忘れないため、この神社を建てたと言うのがこの神社の発祥らしい。
「なるほど、そんな歴史があったんですね」
「そうなのよ、だからもし次に会った時は敬意をこめてお話とかしてあげてね。それじゃあ今日はもう暗いし、あがりましょうか。石段を降りる時は足元に気をつけて帰ってね」
「はい分かりました、今日はありがとうございます!」
私はリュックを掴み、社務所を出て帰路についた。
七之神神社にへ あんこ餅こね太郎 @Ankomon
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