第91話 成長した弟子

「話したいことって?」


 そう、彼女の前の席に座り、向き合う。


 ネコは、僕の弟子は。

 深刻な顔でこう話す。


「……ウィルソーの奥さんが、遊女として売り飛ばされていたんです」


 ウィルソー?


 どっかで聞いたことが……


 少し腕を組んで考える。

 だけど


「借金回収のときに、1番目に対処した債務者です」


 ああ。


 思い出した。


 そして同時に。


「えええ?」


 信じられなかったから。

 思わず大きな声が出た。




 あの最低男・ウィルソーには、約束を破るなという呪いを掛けたんだ。

 だから、奥さんを売り飛ばすなんてありえない!


 どうしてもお金が無くて困ったとしたら、自分を売り飛ばすハズ。

 まあ、普通に生きていたらそんな事態にはならないし。

 そうさせないための呪いなんだ。


 どういうことなんだ……?


 僕が思わず考え込むと


「私は気になってしまったので、その辺のおじさんの姿に変身して、ウィルソーの奥さんを買いました」


 オバサン娼婦なので安かったですよ。

 淡々と、弟子。


 ……立派になったな。


 思わずホロリ。


 いや、今はそれどころじゃない。


「で、説教おじさんになって、彼女を説教したら、ゲロしてくれましたよ」


 突然、旦那が自分と娘を売り飛ばした、って。


 ……なん……だと。




「これは、ウィルソーがマギ先生の追っている最悪の邪教神官と成り代わっているということでしょうか?」


 あの奥さん、ウィルソーの最初の借金騒動は正確に本当のことを言ったんです。

 それで、自分と娘を売り飛ばしたという話だけ作り話っていうのは可能性低いと思うんです。


 自分なりの分析。

 ちゃんと裏も取っている。


 じーんとしながら。


 僕は頷いた。

 頷きながら


「ウィルソー本人は?」


「危険なのでそれはまだです」


 よし。

 手を出してはいけないところは理解しているね。


 僕は嬉しいよ。


 その上で、僕の見解を言う


「多分、ウィルソーは成り代わりの対象じゃない」


「それは何故ですか?」


 ネコの質問。

 それに対して僕は


「ウィルソー本人が成り代わられているなら、売るのは子供だけになるはずさ。嫁は女中代わりに禁忌の魔法で洗脳し、手元に置いておくと思う」


 でないと身の回りのことを全部自分でやらないといけない。

 これは面倒だ。


 タダで動いてくれる女中候補生がデフォルトでついてくるんだから、売り飛ばすのはありえないだろ。


 その説明をすると、ネコは


「じゃあどうして禁忌の魔法が効いて無いんですか? 誰かが呪いを解呪したんですか?」


 困惑した顔でそう言う弟子に。

 僕は


「いや、そんなことはしなくていい……」


 そう答える。

 ネコとしては、それが理解できないという顔をした。


 だから僕は、呪い系の魔法の特筆事項を教えようと思った。


 ……それは


「文言の優越の問題だね」





 何かを強制する呪いを掛ける魔法は、複数掛けることができるけど、同時に掛からない場合がある。


 それは、強制する内容が矛盾する場合だ。


 例えば


 使命付与で「来月まで1日も休まず働き続けろ」という呪いと、禁忌で「休まない」という呪い。


 これは同時に掛からない時間が存在してくる。


 当月中は片方しか発動しないんだ。

 どっちか強い方が発現し、そうでない方は沈黙する。


 そして来月になれば、使命付与の魔法が消滅するので禁忌だけが残るんだ。

 そういう仕組みなの。


 その辺を説明すると……


「それはつまり、マギ先生の禁忌を上回る魔力で魔法を掛けた人間がいるということですね?」


 ネコが神妙な顔でそう言うので


 僕は


「だろうね」


 そう、頷きながら返し。


「で、僕の話だけど……」


 当初の予定では、今後の彼女の将来の話をするつもりだったんだ。


 けれど今は……

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