第14話 永遠の友

 三月一日、現在行われている卒業式が終わると、俺と竜也とさくらはそれぞれ東京、大阪、福岡と、散り散りになる。

 将来教師になることを目指して福岡の大学に行くさくらに、俺は前に告白して振られていた。

 理由を訊ねると、友達としか見れないと真顔で言われ、俺はショックのあまり、その後三日間寝込んだ。

 もしかして、竜也のことが好きなのではないかと思い、それとなく訊くと、それも違うみたいだった。 

 結局、俺たち三人の関係は微妙なまま、明日から離れ離れになる。



「お前、全然泣いてねえな。普通こういう時は、女は泣くもんだろ」


 式が終わって教室に戻ってきたさくらに、一足早く戻っていた竜也が毒づいた。


「人を薄情者みたいに言わないでよ! 私はただ涙を安売りしたくないだけなの」


「ほう。来月から大学生になるだけあって、言うことが渋いねえ」


「竜也、もうそのくらいにしとけよ。最後の最後まで、お前らが言い合いしてるところ見たくないからさ」


「ああ、分かったよ」



 その後、担任の門出の言葉を聞き、いよいよこれで終わりとなった。

 泣いたり笑ったりしながら教室を出て行くクラスメイトを尻目に、俺たち三人はなかなか席から離れられないでいた。


「俺たちもそろそろ帰ろうぜ」


 竜也の言葉を皮切りに俺も席を立ち、二人で教室から出ようとすると、さくらが席に座ったまま、「もう少しここにいようよ」と、なぜか慰留した。


「どうした? まさか今頃になってセンチな気分になったんじゃないだろうな」


 竜也がからかうように言うと、さくらは机に突っ伏し、声を上げて泣き出した。


「マジかよ……ていうか、なんで今頃になって泣くんだ?」


 首を傾げる竜也に、俺は透かさずフォローを入れる。


「多分、みんなの前で泣くのが恥ずかしくて我慢してたんだよ。さくらって割と繊細だから」


「繊細ねえ。どうでもいいけど、早く泣き止んでくれないと、このままじゃ帰れないな……あっ、そうだ。高志、ちょっとこっちに来い」


 そう言うと、竜也は立ち上がり、ドアに向かって歩き出した。


「どうしたんだよ、いきなり」


「いいから早く」


 言われるがまま竜也に付いて外に出ると、彼は漫才のネタを即興で作り、それをすぐに二人でネタ合わせした。


「よし、じゃあ始めるか」


「おう」


 俺たちは小走りしながら教室に入り、そのまま教壇に立った。


「どーもー! 【ダブルコンタクト】の小平でーす!」


「どーもー! 【ダブルコンタクト】の中道でーす!」


「いやあ、今日でいよいよ高校生活も終わりですね」


「そうですね。ところで卒業といえば、やはり女子生徒の涙ですよね。彼女たちの涙はほんと美しいですよね」


「女性の涙は絵になりますからね。それに引き換え、男性の涙は見苦しいので、できればあまり見たくありません……あれ、おかしいな。悲しくもないのに、涙が出てきました」


「って、言ってるそばから、なんであんたが泣いてんだよ! 見苦しいから、早く泣き止めよ!」


「そんなこと言われても、僕の意思に反して、涙がどんどん溢れて止まらないんですよ!」


「あんた、号泣してるじゃないか! ていうか、この短時間に一体なにがあったんだよ!」


「それが分からないから困ってるんじゃないですか! もうこうなったら、あなたも一緒に泣いてください!」


「なんで俺も泣かないといけないんだよ! もうやめさせてもらうわ」  


 漫才が終わると同時にさくらは顔を上げ、俺たちに向かって拍手した。


「最後にいいもの観れたわ」


「嘘つけ。お前ずっと机に突っ伏して、全然観てなかったじゃねえか」


 半笑いしながらそう言う竜也に、さくらは真剣な眼差しを向けてくる。


「その分、ちゃんと聴いてたから。私、この漫才、一生忘れないわ」


「そう言ってもらうと、俺たちもやった甲斐があるというものだよな。なあ、竜也」


「おう。【ダブルコンタクト】にとって最後となる漫才を、お前に観てもらえてよかったよ」


 竜也がそう言うと、さくらは破顔し、その姿を観てると俺と竜也も自然と笑顔になった。

 

「じゃあ、そろそろ帰るか」

「ああ」

「またいつか三人で会おうね」


 俺たちは誰もいなくなった教室を後にし、未来に向かって歩き出した。




 その後十年が経過し、俺は高校時代からの目標だった日本一の漫才コンビを決め る大会(C1)の決勝進出を果たすまでに成長していた。

 そして今日は、いよいよその優勝者が決まる日だ。

 俺は次の出番に備え、相方とともに舞台袖で待機していた。


「おい、前のコンビ結構ウケてるな」


「大丈夫。俺たちの方が面白い」


「でも、さっきから客の歓声が半端ないぞ」


「心配するな。俺たちなら、この何倍もの歓声を受けられるさ」


「ほんと、お前はいつもポジティブだよな。不安とか感じたことはないのか?」


「俺はお前とコンビを組んでから、そんなの一度も感じたことはない。俺たちが最強のコンビだということを、今夜証明してやろうぜ」


 相方の頼もしい言葉を聞いているうちに前のコンビの審査が終わり、いよいよ俺たちの出番となった。


「それでは、次は『ベストフレンズ』のお二人です!」


 相方と二人で決めた、こっずかしいコンビ名が会場にとどろく中、俺は竜也と共に、スポットライトに照らされ光り輝いている舞台のセンターに向かって駆け出した。


  了



    


 

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ベストフレンズ 丸子稔 @kyuukomu

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