第9話 配置転換?
日曜の昼下がり、特になにをするでもなく部屋でゴロゴロしていると、突然さくらが入室してきた。
「うわっ! なんだよ、いきなり」
起き上がった瞬間、絨毯の上に置いていたペットボトルが体に当たり、中のジュースがこぼれ落ちた。
「何やってんのよ! 早く乾いたタオルと水を持ってきて!」
「分かった!」
俺はすぐに部屋を出て、階段で一階まで降りた後、まずキッチンでコップに水を汲み、洗面所に掛けてあったタオルを持って急いで部屋に戻った。
「ちょっと貸して!」
さくらは俺から水とタオルを強引に奪い取ると、まずはジュースがこぼれている場所に水をかけ、その上にタオルをかぶせた。
「高志、掃除機を持ってきて」
「ああ」
俺は再び部屋を出て、一階のクローゼットの中から掃除機を引き出し部屋に戻ると、さくらは「じゃあ、ちょっとタオルを押さえてて。私がその上から掃除機で吸い取るから」と言いながら、掃除機のコードをコンセントに差し込んだ。
掃除機のモーター音が部屋中に響く中、さくらに言われるがままタオルを押さえていると、彼女はその上から掃除機で水分を丁寧に吸い取り、なんとか絨毯がシミにならずに済んだ。
「ほんと、ドジなんだから。今度から気を付けなさいよ」
「はあ? 元はと言えば、さくらが突然来たりするから、こんなことになったんだろ」
「人のせいにしないでよ。ていうか、いきなり来るのはいつものことじゃない」
「高校生ともなると、こっちもいろいろ事情があるんだよ。それより、何の用」
「別に大した用じゃないよ。ただ、この前高志たちの漫才を観て、少し気になったところがあったから」
「何が気になったんだ?」
「この前の漫才は、高志がツッコミで竜也がボケをやってたでしょ? 私的には、入れ替わった方が今よりもっとうまくいくような気がするんだよね」
「なんでそう思うんだ?」
「性格的なことよ。竜也の普段の口調はどう見てもボケよりツッコミの方が似合うし、高志は性格的にツッコミよりボケの方が合うと思うの」
さくらの言ってることはなんとなく分かる。
最初、竜也から提案された時は、俺も少し意外に感じたから。
でも今は、ツッコミが適役とさえ思うようになっている。
今更ボケには変わりたくない。
「正直、俺も最初は違和感があったけど、やっていくうちにどんどん面白くなってさ。今はツッコミで良かったと思ってるんだ。ひょっとしたら、竜也はこうなることを見越して、俺をツッコミにしたんじゃないかな」
「あいつがそこまで計算してるとは思えないけど……でも、ネタも全部書いてるみたいだし、そういう才能はあるのかもしれないわね」
「あいつ、お笑いに関してはすごく真面目で厳しいんだ。普段はあんなにおちゃらけてるのにな」
「まあ、あいつなりに真剣に取り組んでるってことよね。あっ! 私、二時に友達と会う約束してるから、そろそろ行くね」
そう言うと、さくらは慌ただしく部屋を出ていった。
それにしても、さくらはなんでここに来たんだろう。
来てすぐ帰るくらいなら、最初から来なければいいのに。
俺はさくらの気持ちが分からないまま、まだ少し濡れている絨毯をじっと見つめていた。
翌日、放課後の教室で、俺はネタ合わせに入る前に、昨日さくらが家に来てすぐに帰ったことを竜也に話した。
「ふーん。まあ、あいつは何考えてるか分からないところあるから、別に気にしなくてもいいんじゃないか?」
「でも、さくらの気持ちが分からないことには、俺も動きようがないんだよな」
「じゃあ、今度さくらが部屋に来たら、いきなり押し倒してキスしてやれ。それくらいのことやらないと、お前らいつまで経ってもこのままだぞ」
「……そんなことして、もしさくらに拒否されたらどうするんだよ。俺たち恋人どころか、友達関係も終わっちゃうじゃないか」
「はははっ! 冗談で言ってるのに、そんな情けない声出すなよ」
笑い転げる竜也を見て、俺は悩んでいるのが馬鹿らしくなった。
「あと、さくらの奴、俺とお前のポジションが逆の方がいいんじゃないかって言ってたけど、お前何か考えがあってそうしたんだよな?」
「考えって?」
「だから、本来はお前の方がツッコミに適してるのに、そうしなかったのは何か考えがあってのことなんだろ?」
「そんなの、あるわけないだろ。ただの勘だよ、勘。なんとなく、その方がいいと思ったんだよ」
平然とそう言う竜也に、俺は腰が砕けそうになる。
「マジで! 俺はてっきり、お前なりの考えがあると思ってたのに……」
「まあ、そうガッカリするな。で、お前はボケをやりたいのか、それとも今まで通りツッコミをやりたいのか、どっちなんだ?」
「俺は今まで通りがいい。最初からツッコミしかやってないから、今更ボケは考えられないというか、ハッキリ言うとやりたくないんだ」
「そうか。じゃあもし最初逆にしてたら、どうなってたんだろうな?」
「それはよく分からないけど、恐らく今ほどはしっくりいってなかったと思う」
「じゃあ、結果的にこれで良かったということか?」
「そういうことだ。じゃあ、そろそろ始めるか」
「なんでお前が仕切ってんだよ。まあ別にいいけど」
竜也の口調がおかしくて思わず吹き出すと、彼もつられてケラケラと笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます