第8話 初めての客?
超一流のお笑いコンビを目指すことを決めてから、俺と竜也は放課後の教室でほぼ毎日ネタ作りとネタ合わせに励んでいる。
最初はぎこちなかったツッコミも、練習をしていくうちに段々と慣れていき、練習を始めて一ヶ月が過ぎた今は、なんの違和感もなくツッコめるようになった。
二人ともコンタクトレンズをしていることから、コンビ名を【ダブルコンタクト】に決め、毎日充実した日々を送っている。
「お前最初の頃に比べると、ほんと成長したよな。この分だと、養成所に行く必要はないかもな」
俺たちは高校を卒業したら、大阪のお笑い養成所に行くことを先日決めていた。
「いや。基礎を習っておかないと、後で苦労することになるから、養成所には行った方がいいよ」
「はははっ! 冗談で言ってるのに、真に受けるなよ。俺だって、そうした方がいいと思ってるよ」
「お前の場合、本気なのか冗談なのか、時々分からなくなるんだよ」
「まあ、それが俺の持ち味だからな。じゃあ、そろそろ始めるか」
「ああ」
その後、いつものようにネタ合わせをしていると、突然さくらがジャージ姿で入室してきた。
「うわっ! ビックリした!」
「お前、急に入って来るなよ!」
「ごめん。ちょっと忘れ物してさ」
さくらはそう言うと、自分の机の中からスマホを取り出した。
「まだ部活中なんだろ? 用が済んだのなら、早く行けよ」
竜也の言葉をよそに、さくらはなぜか笑みを浮かべながら、近寄ってきた。
「ねえ、今漫才の練習してたんでしょ? せっかくだから、少し見学してもいい?」
「いいわけないだろ。早く戻って部員たちの世話をしてやれよ」
さくらの申し出を無下に断ろうとする竜也とは逆に、俺は漫才を観てもらえる絶好のチャンスだと思った。
「まあ、いいじゃないか。見学くらいさせてやろうぜ。第三者の意見も聞きたいしな」
「サンキュー。じゃあ雰囲気を出すために、教室に入ってくるところからやってよ」
「ったく、ほんとわがままな奴だな」
竜也は文句を言いながらも、言われた通り教室から出ていき、その後に俺も続いた。
程なくしてドアを勢いよく開けると、俺たちは小走りしながら教壇の上に立った。
「どーもー! 【ダブルコンタクト】の頭脳担当こと小平竜也でーす!」
「どーもー! 【ダブルコンタクト】のビジュアル担当こと中道高志でーす!」
「あははっ!」
まだ挨拶をしただけなのに、さくらはなぜか爆笑している。
「まずは俺たちのコンビ名について軽く説明しますね。俺たち二人とも目が悪くて、普段コンタクトレンズをしています。なので、二人合わせてダブルコンタクトでーす」
「おい、おい。今更そんな説明しなくても、そんなのみんな知ってるよ」
「なんだと? 俺たちまだ一度もテレビに出たことないのに、なんでそう言い切れるんだよ」
「あのなあ、ダブルコンタクトという名前で、ある程度予想できるだろうが」
「そんなの分からないよ。もしかしたら、二人とも連絡好きって思う人もいるかもしれないだろ」
「ああ、確かにコンタクトって、連絡するという意味もあるからな……って、そんなわけないだろ! なんだよ、連絡好きって」
俺のノリツッコミに、さくらが腹を抱えて笑っている。
「二人で四六時中、お互いの近況を言い合ってる仲の良いコンビと思われてるかもしれないだろ」
「だからそんなこと思ってる奴なんかいねえって! ていうか、いつまでコンビ名の話をしてるんだよ。そろそろ違う話題に移ろうぜ」
「いやあ、コンビ名の話でまだまだ場を持たせようと思ってたんだけど、そろそろ限界かな?」
「当たり前だ! お前、コンビ名の話だけで、どれだけ持たせようと思ってたんだよ」
「できれば最後まで」
「ふざけるな! いまだかつて、コンビ名の話だけで漫才を終わらせた奴なんかいねえよ!」
さくらが涙を流しながら笑っている。
「だから、それを俺たちがやれば面白いかなって。何事も最初にやった者がいい評価を受けるからな」
「受けねえよ! そんな実験的なことをして、もし失敗したらどうするんだよ!」
「その時はまた別のやり方でチャレンジすればいいじゃないか」
「俺はそんなのしたくねえよ! ていうか、いつまでコンビ名の話をしてるんだよ!」
「だから、さっきから言ってるじゃないか。このまま最後まで続けるって」
「やめてくれー! 俺はまだこの世界を辞めたくないんだ!」
「まあ、まあ。これを最後まで続けたからって、非難されるとは限らないじゃないか」
「ていうか、なんでお前はそんなに余裕でいられるんだよ!」
「それは、この漫才が評価されるって分かってるからだよ。それより、何か気付かないか?」
「何かって?」
「この漫才は一見コンビ名の話ばかりしてるように見えるけど、実は途中からコンビ名とは直接関係ない話をしてるんだよ。このテクニックに気付いた者が、後で俺たちを賞賛するってわけさ。はははっ!」
「テクニックとか恥ずかしいこと言ってんじゃねえよ! もうやめさせてもらうわ」
漫才が終わると、さくらは拍手で称えてくれた。
「めちゃくちゃ面白かったよ。まだ始めて一ヶ月なのに、息もピッタリだったし」
「まあ幼い頃からの付き合いだから、息が合うのは当然だよ」
「それよりお前、最初俺たちが挨拶した時に、なんで笑ったんだよ」
「そりゃあ、あんな挨拶されたら、誰だって笑うわよ。高志のビジュアル担当はギリセーフとしても、あんたの頭脳担当はないわ」
「なんでだよ! そもそも、今のネタだって、全部俺が作ったんだぞ!」
「へえー。国語の成績は悪いのに、そういう才能はあるんだ」
「お前は一言多いんだよ! もっと素直に褒められねえのか!」
「悪かったね、素直じゃなくて。じゃあ私、そろそろ行くわ」
「おい、ちょっと待て! まだ話は終わってねえぞ!」
竜也の静止も聞かず、さくらは逃げるように教室を出ていった。
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