第7話 新コンビ誕生!
竜也とさくらがいてくれたおかげで、俺は復帰初日をなんとか無事に過ごすことができた。
ホームルームが終わり、クラスメイトが次々と教室を出て行く中、竜也に「帰ろうぜ」と声を掛けると、彼はなぜか席を離れようとしない。
「どうした、体の具合でも悪いのか?」
「いや。まあ、とりあえず、ここに座れよ」
俺は言われるがまま竜也の隣の席に腰を下ろす。
「お前、お笑い、好きだよな? よくテレビや動画で観てるって言ってるもんな」
「まあ好きだけど、それがどうかしたか?」
「唐突だけど、俺たち今からコンビ組んで、超一流のお笑い芸人を目指さないか?」
「はあ? それ、本気で言ってるのか?」
「もちろん。で、お前は漫才とコントの、どっちがやりたい? ちなみに、俺は漫才の方が俺たちに合ってると思うんだけど」
勝手に話を進める竜也に、俺はすぐさまブレーキをかける。
「ちょっと待て。なんでもう俺もやる前提になってるんだ? 俺はまだやるなんて、一言も言ってないだろ」
「じゃあお前、他になにかやりたいことでもあるのか?」
「特にないけど、それとこれとは話が別だろ」
「まあ、そうだけど、とりあえず俺の話を聞いてくれ。俺たち今まで野球しかやってこなかったから、今更一流大学を目指すのは無理があるし、かといって他になにかやりたいことがあるわけでもない。それなら、お互いの好きなお笑いで頂上を目指すのも、ありだと思わないか?」
竜也は言葉巧みに揺さぶってくるけど、そう簡単に屈するわけにはいかない。
「あのなあ、お笑いで頂点に立つのは、メジャーリーグでバリバリ活躍するのと同じくらい難しいことだ。そんな
「それくらい俺も分かってるよ。だからこそ、やりがいがあるんじゃないか」
「いや、分かってない。芸人として成功するのはほんの一握りで、ほとんどの者は途中で辞めるか、バイトをしながらなんとか生活してるんだ。お前にその覚悟があるのか?」
「俺は、芸人はある程度下積みを経験した方がいいと思ってる。その方が芸に深みが出るからな。そのための苦労なら喜んでするよ」
竜也はまったくあきらめる様子を見せず、逆にどんどん加速していく。
「俺はそんな苦労はしたくない。デビューして三年以内に売れなかったら、その時点であきらめるだろうな」
「おっ! やっとやる気になったようだな。じゃあ、三年以内に売れるよう頑張ろうぜ」
竜也が弾んだ声で鼓舞してくる。
どうやら、何か勘違いしているようだ。
「……いや、今のはそういう意味で言ったんじゃなくて、仮の話のつもりだったんだけど」
「今更そんなこと言っても、もう遅い。じゃあ早速、今からネタ作りを始めるぞ。最初は軽く学校ネタにでもしとくか」
「────」
生き生きとした表情でアイデアを次々と出す竜也を見てると、俺はもう観念するしかなかった。
学校から帰ると、俺は夕飯もそこそこに、机に向かった。
それは決して勉強のためではなく、さっき竜也から『このアイデアを基に、明日までに漫才のネタを一本作ってこいよ』と、無茶ぶりされたからだ。
竜也の言う通り、俺は確かにお笑いが好きだ。
小さい頃からずっと観てきたし、コントや漫才のコンテスト番組は今も欠かさずチェックしている。
でも、ネタを作るのは、まったく別の話だ。
今までそういう目で観ていなかったから、いざ作ろうとしても、どこから手を付けたらいいかよく分からない。
結局俺は竜也に笑われるのを覚悟で、学校ネタのド定番である授業ネタを一本書くことにした。
「うーん。これだと、ベタ過ぎるな。かといって、こっちだと奇抜過ぎるんだよな」
一人でああでもないこうでもないと格闘しているうちに、気が付けば日付が変わっていた。
今朝久しぶりに早起きしたこともあり眠気が限界にきていた俺は、まだネタが仕上がっていないにも拘わらず、そのまま床に就いた。
翌日、放課後の教室で、俺と竜也はお互いの書いたネタを見せ合った。
といっても、俺のはまだ途中までしか書いてないんだけど。
「これ、最後まで書く必要はないな。書いたところで、たかが知れてるし」
竜也は読み終わった途端、辛辣な言葉を浴びせてきた。
「俺なりに頑張って書いたのに、その言い方は酷くないか?」
「頑張ればいいってもんじゃない。面白くないネタには、なんの価値もないからな。それより、俺のネタはどうだった?」
「まだ最後まで読んでないけど、途中まで読んだ限りでは、なかなか面白く仕上がってると思う」
この言葉に嘘はなく、実際竜也の書いたネタは俺のとは比べ物にならないくらいクオリティが高かった。
「じゃあ、当面は俺がネタを書いた方が良さそうだな。お前はその間もう少しお笑いを勉強して、いずれはネタを書けるようにしてくれ。というわけで、今からネタ合わせするから、とりあえず最後まで読んでくれ」
「えっ! まだボケとツッコミをどっちがやるかも決めてないのに、ちょっと早過ぎないか?」
「まあ早いに越したことはないからな。で、お前はどっちをやりたいんだ?」
「俺は自分がどっちに向いてるかよく分からないから、お前が決めてくれよ」
「じゃあ俺がボケを担当するから、お前はツッコミをしてくれ。もしそれでうまくいかなかったら、その時にまた考えればいいから」
「分かった」
その後、声漏れを防ぐため窓を全部閉めてネタ合わせをし、一通り終わる頃には二人とも汗だくになっていた。
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