第132話 陛下の企み
スタンによれば、問題の魔女と直接話したのはこれが初めてのことらしい。
いつも人を仲介して、のらりくらりと逃げられていた。そんな魔女を公爵が呼んでいると偽った上で呼び出して捕獲した。
「彼女は狂っているが、魔女だ。魔女としてのルールを破っている自覚もある。自覚があるからこそ陛下の庇護から抜け出さず、諫める公爵の矛先をずらし、僕との邂逅を避けた。僕に会えば捕らえられるとわかっていたからだ」
「顔を合わせた瞬間捕まるってどういうこと」
「証拠は存分にあるからね。陛下の手の届かないところ…私用で顔を合わせたとしても余罪で捕まえられるくらい。向こうもわかっていたから僕と会わないようにしていた。魔女達に釘を刺したときにも次はないぞと脅していたし…それで手を引くなら許したけど、彼女は懲りなかったから。陛下の手の届かないところで捕まえる必要があったんだ」
「でもそれ捕まえたことがばれたら陛下に邪魔されるんじゃないの。どう処分…じゃなかった、処罰するのよ」
「陛下に邪魔させなければいいからね。この目で結果を確認していないけれど、上手くいった連絡は来たから問題ないよ」
直接顔を合わせたら解決するのに今まで捕まえられなかったってことかしら。
上手くいった連絡って誰から。
「魔女の相手は簡単だった。教えてあげればいいだけだったからね」
「何を」
「陛下は君を利用しているだけだよって」
「…わかりきったことじゃないの?」
「言っただろう。陛下は魔女達を愛人のように扱っていたと。あの魔女は、本気にしていたんだよ」
人として欠けている部分の多かった魔女だが、愛情深い女性だった。
次はないと脅されても陛下のために王女を呪い続けたのは、呪いの研究もあるが愛する男のためだった。
魔女はスタンの言葉を信じなかった。だからスタンは丁寧に教えてあげた。
「陛下の願いは、エヴァが呪いを解いて聖女として認められること。それは小規模ではなく大々的に…そう、世界的に認められることだ。その場合、解かれた呪いはどこから来たのか開示する必要がある。かつて魅了の呪いを使って罰を受けた魔女のようにね」
その場合、呪った魔女は悪い魔女として世間を騒がせることになる。
「『娘を聖女にするため陛下が魔女に呪いを送るよう依頼していた』なんて、世間に公開できるわけがない。それくらい陛下もわかっている。むしろわかっていて魔女をいいように利用しているんだ。そのときが来たら『陛下に懸想して嫉妬に狂った魔女が、陛下を貶めるためか弱い王女に狙いを定めて呪いを送った』と発表するためにね」
光があれば闇がある。
正義があれば悪がある。
物語を盛り上げるためにはどちらも必要で、陛下は悪役に魔女を選んだ。自分ではなく、実際に呪いを送っている魔女を。
その理由が悪質であればあるほど、呪いを解いたエヴァの正当性は認められる。光り輝くスポットライトの下で目立つことになる。
「陛下が君を優遇するのはそのとき切り捨てるためで、陛下は君をこれっぽっちも愛していないよと教えてあげたんだ」
「陛下の評価が地底に到達しそうだわ」
なんつう思考回路をしているんだ。いやだそんな統治者。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます