第25話 極炎の天才魔法使いは普通の学生生活を送りたい

「ルージュ君っ!」


「ルージュ!」


「おおっと、お揃いで。心配かけたみたいだな、悪い」


 久しぶりに感じる寮へと一人で戻ってきて見れば心配してましたと顔に張り付けた二人が駆け寄って来た。


 未だに信じられないが、ユニアはあの森のモンスターを従えていた。

 木を隠すには森の中とはよく言われるが、獣人を隠すにはモンスターの中ってのはありかもしれないと、一旦ユニアはパティアの森で生活することになった。


「大丈夫!? ごめんね! ごめんね! あ、あたしがダメダメだったから!」


「本当にすまない。何が起こっていたか全然わからないというのに謝るのは虫のいい話だが……わからないということを謝罪させてくれ」


「やめてくれって、というかあれから二人はどうしてたんだ? 事情聴取とかって無理やり連れていかれたし、俺もよくわからないんだよ」


 結局あの場は変装したエンリがコトを収めた。

 パティアの森から異常な魔力を感知したという体で宮廷魔法使いを引き連れて調査中に俺たちを発見。

 その場の責任者であるラナを聴取に連れて行き、獣人を発見した俺も同じくして、という形だ。


「……僕たちはあの後宮廷魔法使いの人たちに護衛されながら街へと戻って来たんだ」


「寮に戻る前にあたしたちも聴取を受けて、学院の調査隊ですって言ったらそれで終わったんだけど」


「大丈夫かいルージュ? 手ひどい尋問なんかを受けたんじゃないかい?」


「なんでだよ」


 冗談にしては若干本気加減を感じる。

 戦争していた相手の戦力とも言える存在だ、当時の捕虜なんかの扱いを考えればわからないでもないけれど、お互い様だろうに。


「俺も似たようなもんだよ、別に痛い目を見たとかそういうんじゃない。獣人を発見したから、その時の様子だ何だってのを詳しくラナ先生と聞かれただけだ」


「そっか……はぁー、よかった。もう、クルス君が尋問だ拷問だなんていうからすっごく心配したよ」


「僕がそう言わなくてもずっと心配してただろうに」


「それはっ!! うー、そりゃ、そうだよ。結局リーダーらしいことなんて、何もできなかったんだし。結局、お手柄らしい手柄なんてルージュ君一人で挙げたものだし」


 日常、というにはまだ違和感が強いけれども。


「みんな無事で何よりってことで納得しておこう。俺だって獣人を見つけたと思えばすぐに宮廷魔法使い様方の登場だ、何もしてないと同じだよ」


 平和で何よりだと思う。

 そう言えば少しだけ気が抜けたのか二人が小さく笑ってくれた。


「しっかし宮廷魔法使いが出て来たなら調査隊もお役御免ってところか。折角ルルが名実ともにスーパーヒロインの階段を昇り始めたところだってのにな」


 そんな気持ちから茶化すように言ってみれば。


「あぁ、ルージュ。そのこと、なんだけどね?」


「す、スーパーヒロインは置いておくとして。あたしたち、とんでもないことになっちゃった」


「とんでもないこと?」


 深刻というには重みが足りず、笑い話にしては引き攣り笑い。


 なんだか嫌な汗が背中を伝ったと実感した時に。


「あたしたち、学院代表の調査隊に選抜されちゃった」


「……はい?」


「明日になればわかる。うん、嫌でも、ね」


 どういう、意味?




「ま、まさか学院で極水様を拝見できることになるとは……」


「不敬だけど止められない。か、かわいすぎかよ」


「ほんとうにちっちゃいんだ……な、なでなでしたい……」


「なんであんな神聖な雰囲気が……く、ストライクゾーンが広がる音がする……」


 図ったな、クソ爺。

 どう考えてもタイミングおかしいだろ、絶対わかってやがったな。


「調査隊、ディク班、前へ」


「はひゃ! ひゃい!!」


 学院で一番大きな魔法練習場、その真ん中で衆目を浴びるこの嫌な感じよ……。

 緊張でバッキバキになってるルルや、苦笑いで表情が固定されているクルスには心底申し訳ないと思う。


「此度の調査、誠にご苦労でありました。あなた方が勇気を振り絞り踏み出した一歩のおかげで、一つ大きな災害と言うべきものを防ぐことができました」


「とっ! とんでも! ごじゃいましぇん!!」


 本当にとんでもございませんだよ、マジで何もしてないっての。

 あ、極水と目が合った、とってもいい笑顔を浮かべられた。くそがよ!


「その功績を称え、栄えあるエスペラート魔法学院調査隊、その運営管理権を与えます。これからも一層の働きを期待するとともに、あなた達の未来を祝福します」


 あーあー、そういう、そういうことねぇ?


 既定路線ってやつだねそうだね。

 爺さんの差し金か、極水の善意か、はたまたお国の決定か。


 どうにも俺って存在をまぁじで都合よく使いたいらしい。


「わっ……わぁー」


「これはまた、凄い魔法だ、ね」


 祝福とはよく言ったものだ。

 極水が魔法で小さな虹を俺たちの頭上へ創り出した。


 んなもんどうでもいいんだよ。

 修道服って名の猫被った幼女さんよ。

 後でしっかり色々聞かせてもらうからな?


「わたくし、極魔第二席、極水。ミューズ・リリアルムが告げます。この学院に新しき風を運ぶ存在であり、規範となる者たちでありますようにという願いを込めて。今後は学院調査隊をフォルトゥリアと名付けます。よろしく、お願いいたしますね」


「かきゃ! きゃしこまりましたっ!!」


「仰せのままに」


「……ありがたき、幸せ」


 あー……ほんっとぉにさ。


 俺は、普通の学院生活を送りながら、回復魔法を学びたいだけなんだけどなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る