第十一話 お前って何


 翌日、昼休み、俺は宣言する。


「第三回会議を始める」

「もうこれいらなくないか?」

 開始早々に三田から不満が漏れる。すでにメンバーの緊張感が感じられない。


「俺の問題を解決しないとお前らも草壁と気まずいままだからな」

 喝を入れる。全員道連れという発想だ。


「そんなことないと思いますよ」

 等々力から異論が唱えられる。なんだ?


「昨日、グループを作った話をしたじゃないですか」

「ああ、俺がハブられてるやつな」

「それに草壁さんも加入しました」

「なんでだよ! 身内に裏切られてんじゃねえか!」

 等々力がラインの画面を見せてくる。そこには三人に続いて草壁の名前とグループ名があった。


『無藤がなにを言ってくるか考える会。無藤バスターズ』

「チーム名まで変えられてるじゃねえか! どんだけ乗っ取られてるんだよ!」

「そもそも私たちは中立ですから」

 むしろ俺だけ孤立してるって。


「一応聞くがどんな会話してるんだ?」

「明日あたり無藤がなんか解決するっぽいこと言ってくるだろうから、そのあとみんなで遊ぼうって」


「俺の予定まで組まれてんのかよ」

 どんだけ舐められてんだ。


「いつ頃遊びましょうか」

「誰も部活とか入ってないし、まだ決めなくていいんじゃないか?」

「そうですね、テストも近いし」

「あ、伊達先輩、勉強教えてくださいよ」

「ああ構わないよ。ボクは受験だから学校のテストはそんなに重要じゃないし」

「なにほのぼのした会話してんだ。会議に集中しろ」

「ボク、後輩に勉強を教えるなんて初めてだよ」

「感慨にふけらないでください」

「無藤さんがずっとつっこんでるの珍しいですね」

「恥ずかしいこと言うな」

「本当の自分って、意外とそういうところにあるのかもしれないね」

「テキトーなこと言って締めようとすんな」

「なあ無藤」

 三田が俺の方を向いて、にやっと笑いながら言う


「今までずっと蚊帳の外だった俺の気持ちがわかったか?」

 屈辱だ。


 会議という名の、もはやただの雑談は終わった。



「腋毛バスターズ、集合!」

 放課後の廊下、ダメそうな予感しかしないが、一縷の望みをかけて俺は宣言する。


「すいません、今日は草壁さんと伊達先輩と私の三人で女子会をやるので」

 想像以上にダメだった。


「女子会ってお前らそんなキャラじゃないだろ。いつの間に仲良くなってんだよ」

「よくあるだろう。強大な敵を目の前にして仲間の絆が深まる的な話」

 俺は強大な敵かい。


「アドバイスしてきます。女の子なんだから腋とか見せない方がいいですよとか」

 手遅れすぎる。


「じゃあ無藤君、今週中には仲直りよろしく頼むよ」

「日程詰めようとしないでください」

「ではでは」

 伊達先輩と等々力が去っていく。完全に取り残された。

 落ち込む俺の肩に、手が置かれる。


「まだ俺がいるぜ」

 三田だった。


「じゃ、また明日な」

「待てよ。たまには話そうぜ」

 三田は真剣な声で言った。

 初めて見るそのオーラに押されて、俺は頷いた。



 駅までの通学路を歩く。三田と二人、ものすごく久しぶりだ。


「無藤と帰んのも久々だな」

 向こうも同じことを思っていたらしい。嫌なシンクロしてしまった。

 こいつはなにがしたいんだろう。わざわざ二人で話したいこと。わからない……はっ、俺は一つの可能性に思い至った。


「もしかして、俺に告ってんのか?」

「まだなんも言ってないだろ」

「すまん、先走ってしまった」

 まあこいつとの会話とかテキトーでいいからな。


「なにを先走ってんのかわからんけど……相変わらず、お前はテキトーでいいな」

 またシンクロしてるし。


「ゾワっとするようなこと言うな」

「お前なら、草壁さんを任せられるよ」

「何目線なんだよ。だいたい、お前こそ草壁ファンだったんじゃないのか」

「まあ、草壁さん好きとか言ってたけど、あんなんノリだしな。入学直後だったから盛り上げるために義務的に言ったって感じだし。そういうのって必要だろ? いや面白い人だとは思うけどな」

 どんどん謎のキャラになってくなこいつ。


「てか本気で好きかってわからないよな。本気で好きって伝えるのってどうすんだろうな。理由があったら良い感じかもしれんけど、理由を作った瞬間に嘘っぽくなるもんな。ま、そこらへんうまくやれや」

 ちょこちょこそれっぽいこと言ってくるし。


「お前、前になんか深いこと言ってヒットしたから味を占めてないか?」

「ふっ、どうだろうな」

 余裕の対応うぜえ。


「三田、お前どういうキャラなんだよ」

「さあな。人は他人のキャラなどわからない。それは自分でもそうだろ。本当の自分なんて、自分で決めてもわからないんじゃないか?」

 そんな言葉とともに、俺たちは駅についた。


「じゃあな。もう悩むのはいいから、さっさと草壁さんと話せよ」


 最後まで謎のまま、三田は去っていった。

 人間、わからんもんだ。

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