不良に絡まれた私をクラスメイトが助けてくれた
烏川 ハル
そうは問屋が卸さない
学校からの帰り道、ちょうど大通りから住宅街の裏道に入ったあたりの出来事だ。
反対側から歩いてくる二人組が視界に入った。
私と同じくらいの年頃で、ただし性別は私とは逆。男子高校生のようだが、あまり見かけない制服なので、近くの高校ではないはず。まあ「あまり見かけない」というだけで、一度か二度くらいは見たこともあるから、それほど遠くでもないのだろう。
二人ともポケットに手を入れて、足を横に突き出すような歩き方だった。しかめっ
そんな二人が、私の方をチラチラ見ながら、道のこちら側を歩いてくるのだ。何か問題が起きたら嫌なので、私は場所を
「……」
二人は最後にジロリと私を一瞥してから、わざとらしく目を逸らす。さらに、すれ違う瞬間、彼らから見て左側――つまり私の方――に体を寄せた。
私は回避を試みたが間に合わず、肩と肩がぶつかってしまう!
いつもの私ならば、反射的に「すいません」と言うのが普通だろう。
しかし今回の場合、どう考えても悪いのは彼らだ。こちらに非がない自覚がある以上、私の口から謝罪の言葉は飛び出さなかった。
とはいえ、こんな事態になれば相手の方を見てしまう。つまり、黙って睨みつけているようにも受け取れる格好であり……。
それが二人を怒らせたらしい。
「おい!」
「ぶつかっておいて『ごめんなさい』の一言もないのか!?」
いやいや、それはこちらのセリフだ。ぶつかってきたのは私ではなく、あなたたちの方なのだから。
心の中でそんなツッコミを入れている間に、後ろからバタバタと騒がしい足音が聞こえてきた。
何かと思って振り返るより早く、その足音の主が私の前に出て、二人組との間に立ち塞がる。
「山田さんに何をするつもりだ!? 僕が許さないぞ!」
大きな広い背中は、同じクラスの佐藤くんだった。
クラスでも一番というくらいにガタイが良いけれど、残念ながら見掛け倒し。運動神経は
いじめられっ子と言ったら大袈裟だが、それに近いポジションの男の子だった。
「なんだよ、男連れかよ……」
「ちっ、虎の威を借る女狐め……」
見掛け倒しということは、知らない者には強そうに見えるということ。
二人組は、いかにも「恐れをなした」と言わんばかりの雰囲気で、さっさと立ち去っていく。
彼らが曲がり角に消えるまで、二人の後ろ姿を見送ってから、佐藤くんは笑顔で私に振り向いた。
「危なかったね、山田さん。まさに危機一髪だったよ」
乙女のピンチを救ったヒーローのつもりなのだろうか。
彼は私に手を伸ばしていた。
握手を求める仕草にも見えるが、そんな状況ではないだろう。ならば「危ないからこの先は僕が手を引いてあげる」みたいな意味かもしれない。
本来ならば「ありがとう」とお礼を言いながら、彼の申し出を受ける場面だろうが……。
「馬鹿にしないで!」
ぴしゃりとその手を跳ねのけると、その勢いのまま「返す刀で」みたいな感じで、彼の頬をパチンと叩いた。
そして呆然と立ち尽くす佐藤くんをその場に残したまま、足早に歩き始めるのだった。
彼には彼の考えがあったのだろう。でも、そうは問屋が卸さない。
私は聞いていたのだ。どうやら佐藤くんは私に気があるらしい、という噂を。
しかも昨日、駅前のコンビニの裏で目撃してしまったのだ。佐藤くんが先ほどの二人組と――「あまり見かけない制服」だからこそ印象に残った二人組と――何やら密談していたのを。
(「不良に絡まれた私をクラスメイトが助けてくれた」完)
不良に絡まれた私をクラスメイトが助けてくれた 烏川 ハル @haru_karasugawa
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