017話 庶民の服装?

 

「マスター、上空に衛星を飛ばしてもいいでしょうか?」


「人工衛星って……、そんなこともできるのか!?」


 ステラが人工衛星を打ち上げる許可をとってきた。衛星を打ち上げるなんて、もっと大ごとだった気がするのだが。



「本来は調査を開始した300年前に宇宙から放出する予定だったのですが、その前に墜落してしまったんです。衛星が3機ほどあれば、おおまかな惑星の地形や都市を把握できます。必要があれば衛星軌道からの攻撃もできますし」


 最後にさりげなく付け加えたが、衛星攻撃は恐ろしい。宇宙からの攻撃なんて、よほどの理由が無い限り使うことはないだろう。



「分かった、許可するよ。ただ、ここは宇宙船からかなり離れているけど大丈夫なのか?」


「このくらいの距離であれば遠隔で操作できます。今すぐにやってしまうので、情報がそろい次第報告します」


 ステラは、ウィーバーの中から小さなデバイスを取り出した。



「バグボットや衛星を使えば、どんな場所でも調べられるのか?」


「いいえ。幾つかのボットたちが、この世界で侵入できない場所があることを報告してきています。おそらく魔法障壁と呼ばれる防御魔法がかかっている場所には入ることができません。この世界では科学技術が魔法の一種として扱われているようです」



 魔法障壁という名前からすると、侵入や攻撃を防ぐための魔法ということだろうか。光線が魔法と認識されていることと同じ理由かもしれない。


「その魔法障壁というのは、通り抜けることはできないのか?」



「できません。何かで覆われているように守られています。ただ、魔法障壁を通過している人もいるので、通り抜けるのに何かの暗号や魔法が必要なのかもしれません」


 カズヤはボットたちの科学力に驚いていたが、この世界にはそれをもってしても理解できない魔法も存在する。


 この世界を理解するのは、まだまだ時間がかかりそうだった。




 アリシアがお勧めする服屋に到着すると、その店構えの立派さに驚いた。石造りで組みあがった外観は荘厳な重厚さを感じる。


「ここが普通の服屋さんよ。私も時々利用するから」


 その言葉を聞いてカズヤは嫌な予感がした。そして、店の中に入り、それが的中していることを確信した。



 店内に並べられている服は庶民が着るような物ではなく、高価そうな服が並べられていた。豪華という訳では無いが、仕立てがいい貴族向けの服が並んでいるのだ。


(こんなに高そうな服から選んでもいいのか!? 街を歩く人の服装を意識して観察してたけど、この店にある服を着ていた人は一人もいなかったけど……)


 おそらく一般人が着る服は、市場のような場所で雑然と並べられているに違いない。



 カズヤの思いを露ほども知らない店員は、高級そうな服を勧めてくる。


(まあ、せっかくアリシアが案内してくれたんだ。無難な服でも選んでおこう)


 気を取り直したカズヤは、本格的に服を物色しはじめた。




 カズヤがいくつかの服を検討していたら、アリシアがにこやかな笑顔で近付いてきた。


「カズヤ、この服はどうかしら?」


 アリシアが差し出してきたのは、原色まみれの何やら凄い服だった。絵具をまき散らしたような極彩色で、鮮やかな色合いに圧倒されそうだった。



「さすがにこれは……、ちょっと派手過ぎないかな?」


「そう? この世界の若者には一般的なほうよ。試しに着てみたら」


 街を歩いていても、ここまで派手な服を着た人は見なかった。



 ただ若者に限定すると、確かにそんなにたくさんの人数は見ていない。この世界では年配者と若者の服装が大きく違うのかもしれない。


 せっかくアリシアが勧めてくれたのだから、とりあえず試してみることにする。



 アリシアが横から覗き込んでくるなか、言われた通りに羽織りながら鏡の前に立ってみる。


 しかし、どう見ても似合わない。それどころか、今の服以上に注目を集めそうだ。



「おいカズヤ、何だそのパーティーで着るような服は!? そんな派手な服を着ている奴なんて、貴族でも見たことないぞ!」


 バルザードが、カズヤの服装を見るなり吹き出した。



「もうバルくん、言っちゃだめよ! 外を歩いて、いつ気付くのか試そうと思ってたのに」


 アリシアがいたずらっぽく笑う。



 とんだイタズラ好きなお姫様だ。いや、それどころじゃない。あやうくとんでもない服装にさせられる所だった。


 カズヤは慌てて服を脱ぎ捨てた。




 次にステラが着替えてきた服装を見て、今度はカズヤは絶句した。


「……そ、その服は!?」


 ステラが着ていたのは日本にもあったメイド服だったのだ。



 黒い布地でできた丈が長いスカートで、花柄や模様が付いた白いレースが縁取られている。まるで規律正しい清潔感を持ち合わせた妖精のような姿だった。


「ステラ、それはこの世界の使用人が着るための服よ。あなたが着るようなものではないわ」


 さすがにアリシアも指摘する。



「いいえ、この服が一番可愛いです。絶対これにします!」


 周囲に反対されてもステラは頑固に主張した。


 ステラは冷静なように見えて、かわいい物好きの一面がある。ステラの好みが少しずつ分かってきた気がした。



 結局、カズヤはベージュを基調とした無難なズボンとシャツを選び、ステラはメイド服を着こんで、ご機嫌な様子で店から出てきた。


「支払いは、王宮の執事に伝えておいてね」



 店員に軽く後払いを指示するアリシアに、お姫様パワーを感じるのだった。

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