016話 違和感のある街
物語から飛び出したかのような石畳の道にレンガ造りの建物。
そんな街の往来を闊歩するのは不思議な生物の乗り物と、エルフやドワーフといったファンタジー世界の住人だった。
しかし、街の住人たちの顔は暗く覇気がなさそうに見える。
瞳の輝きも弱く、どこかよそよそしくて生気を感じなかった。
「……なんか、住人たちの元気が無さそうだな」
「最近の不景気や食糧不足で疲れているのかも。エストラは井戸が少ないから、水不足にもなりやすいのよ」
アリシアは悲し気な表情で下をうつむく。
「食糧を増産できるようにお父様に進言するんだけど、なかなか実現しないの。小さくて裕福な国ではないのは分かっているわ。でも、このエルトベルクを元気な国にするのが私の目標よ。まだ若くて小さな国だけど、これからもっともっと良くなっていくはずだわ」
アリシアが胸をはって答える。
エルトベルク王国の人口は15万人くらいで、そのうち半分近くの7万人ほどが首都のエストラにいる。人口的に見ても、この世界ではそれほど大きい都市ではなさそうだ。
「お父様のお祖父さまが、100年前にここに住んでいた魔物を倒して、この街を作ったの。もともと何もなかった土地に新たな街を建設したのよ」
アリシアが、エストラの歴史を得意げに教えてくれる。
アリシアは国を開いた英雄の末裔ということか。それならば先祖を自慢に思ったり、この国を良くしたいと願うのも不思議ではない。
それに、100年前に建国ということは、国としては割と最近に作られたといってもいい。
一見すると、世界遺産のヨーロッパの城塞都市のようだったが、街道や建物に歴史を感じる古さが見られなかったのは、そういうことだったのだ。
「それじゃあ二人共、どこを見たい?」
少し前を歩いていたアリシアが振り向いた。
「街の説明をしてくれた後に申し訳ないんだけど、まずは服を買いたいんだ……」
「あら、その不思議な服装は素敵だと思うんだけど。皆が注目しているわ」
その注目が恥ずかしいのだ。
カズヤとステラは身体のラインがくっきり見えるような密着した服を着ている。
街を通り過ぎる人達が、まずは背の高いバルザードに気付いた後に、アリシアの姿を見つけて一礼し、カズヤたちを見てギョッとする。そんな悲しい流れができあがっているのだ。
「さすがにちょっと目立ちすぎて」
「そんなこと無いと思うけどね。それじゃあ、普通の人が着るような服屋さんに案内してあげるわ」
そう言って、アリシアが先導して案内してくれる。
「それにしても、お姫様がこんなに身軽に街なかを歩いて大丈夫なのか?」
「私の街だから大丈夫よ。バルくんもいるしね」
街なかを自由に闊歩するアリシアを見て、カズヤは少し心配になってきた。
「バルくんはこの国では一番強いのよ。”
「今は剥奪されましたがね」
不意に褒められてバルザードの顔がニヤける。
Sランクの凄さがよく分からないが、Aランクの上だとするとかなりの実力者だ。
「とすると、バルザードはこの国の騎士なのか?」
「ハハハッ、俺様が騎士なわけがないだろう。そんなにお行儀良くないぜ」
カズヤの疑問に、バルザードは大きな声で笑い飛ばした。
この国でのバルザードの立場がよく分からない。さきほどのテセウスが騎士団長と言っていたが、奴の部下のようにも見えなかった。
「まあ色々あって、俺は姫さんに直接雇われている護衛なんだよ。だから敬意を示すのは、姫さんと陛下ぐらいだぜ」
なるほど、それでバルザードの自由な立ち位置が理解できた。
しかし、そんな大好きなバルザードと街を散歩しているのに、ステラはいまいち浮かない顔をしている。
「どうしたんだ、ステラ。なんか元気なそうな顔をしているけど」
「マスター、この街に何か違和感を感じませんか? 足元の感覚が狂うような……」
ステラが怪訝そうな顔をして尋ねてきた。
「違和感……?」
冗談かと思いきや、ステラは意外にも真面目な顔をしている。
足元の違和感と言われても、初めて来た異世界の街なので、当たり前の景色なのか違和感なのか分からない。石造りの街道に慣れていないのだろうか。
「いや、俺は特には感じないけど」
「そうですか……。久しぶりに地面の上を歩いているので、重力の調整がうまくいっていないのかもしれません」
ステラはあまり納得していない表情で答えた。
「マスター、この辺りの地形について、もう少し詳しい情報を手に入れたいです。上空に衛星を飛ばしてもいいでしょうか?」
「な、なんだって!? 人工衛星を飛ばすって?」
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