第3話 彼女はショタコンだったのか?
「だけども、完全に『男性がいない』訳ではないのよね」
チエルの言葉にきょとんとする者もいるが、それは生物学上の事実ではあった。
学園内にいる女性の中には、『元・男性』だった者が数名存在しているのである。性転換手術を受けて女性になってはいるが、出生時の性別は確かに男性だったのだ。
「女性ホルモンの影響でウイルスの空気感染を免れたと考えられるけど……もしもあの中に生殖機能を維持している人がいたとすれば……」
「それこそまさに神の奇跡ですな。これで人類は存続できる!」
科学部の
「しかし、みなさん心は女性なのですよ? 同性を愛するものでしょうか?」
「そこはシスター、愛は性別を超えるのだッ、とか言うところなんじゃないんですかぁ?」
「む……。それは確かに一理ありますが……」
愛を説くシスターが信仰の問題に直面している一方、
「聞くところによれば、感染を避けるため、あえて女性ホルモンを摂取した政治家もいるという。そうした邪な人間が紛れている可能性もあるかもしれんな……」
「それはなんてスキャンダル!
「ウイルス感染の可能性はないんだな? 外でゾンビに噛まれた結果、という」
「それは風紀委員である喜久井先生の方が詳しいのでは?
「ではやはり、内部に男が……。しかしこの校舎を制圧した際、校舎は隅々まで調べつくした――」
「こういう可能性はありませんかぁ? 男性そのものがいたのではなく、我々の中に『すでに妊娠していた女性』がいたのです。その方が内密に出産し、生まれた男児が……とか?」
「トンデモな発想ね……」
黙って議論を聞いていたミキサはため息をつく。一同の顔を見回しながら、頭の中でそのトンデモな発想にもしっかり反証する。
「妊娠していたなら、チエル先生が気付いていたでしょう。ヒナタの様子を見るに隠そうとして隠せるものではないみたいだし。もし隠れて出産していたとしたら、そこには先生も関与しているはず。そしてその出産に必要となる物資があれば、その動きに気付かない新聞部ではないでしょう?」
「むむむ……。わたくしは無能ではないので、おかしな食糧の動きなどがあれば報告しましたとも」
「妊娠・出産なんて一大事、隠して行えるものではないわね。そもそも、そのために必要な知識や道具が私たちには圧倒的に足りていない。それをどうにかするためにも今回の会議を開くことになったのだし」
では、と科学部が挙手する。
「子どもたちのグループの中に、男児が紛れ込んでいた可能性は? 世界がこうなる以前にも、生殖器が小さすぎるために判別できず、男児を女児と誤って届け出た例があるらしいです。あの時代には性別の曖昧化、中性化が進んでいたなんて話も」
「おや、科学部さまと意見が合うなんて珍しい。やっぱりそうですよねぇ、あの女は世にいう『ショタコン』だったんですよ! これはスキャンダルですねぇ! 生徒会の会計、ショタコンだった! ショタコンってなんかすっげえヤベェやつなんですよね? ね?」
「滅多なこと言うもんじゃないわよ」
と呆れてみせるミキサだが、内心では割とありうるかもしれない、と反論が浮かばなかった。なので、話題を変えることにする。
「原因の追及も大事だけど、今回話し合いたいのは今後のこと」
「そうね。今ある物資で出産に対応できるのか、私でも判断しがたいところだわ。食堂の
妊娠や出産なんて、これまで考えたこともなかった問題だ。この学園にたどり着くまでの道中、病院などから使えそうな物資を回収こそしてきたが――
「生き残るために必要なものはある。だけど、赤ちゃんを育てるために必要な物資があるのか……」
出産という一大事に際し、準備すべきことは未知数だ。病院の設備が必要になるなら装備を整え、近くの廃病院まで命がけの大移動を行うことになるだろう。探索して発見できない物資があれば、その代用となるものを開発する必要に迫られる……。
そうした今後の問題について話し合いたいところなのだが、
「そもそも、そうしたリスクを冒してまで出産させる必要があるのか?」
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