32:人型になったフォン・ダン・ショコラ。
イヌ耳を携えた、黒髪の男児を見る。
推定八歳くらいの見た目で、くりっとした赤いお目々が印象的な子。全裸の。
「ん。出来たな。話せるか?」
「はなせる! これで、くさいごしゅじんさまとも、はなせ――――ギャッ!」
脊髄反射で拳骨した私は悪くないよね?
コイツら、まだ『くさい』言ってたのか。
「そうだった、いったら、おこられるんだった」
「……思ってるだけでも怒るわよ? っていうか、フォンなの?」
「うん、ふぉん、だよ!」
イヌ耳をショボーンと横に倒して、頭を押さえている姿は、ちょっと庇護欲がそそられた。いかんいかん。
「ぼくたちが、おてつだいする!」
「たち?」
「流石に三体にはまだなれない」
「……まだ」
本人(?)たちの年齢と魔力がまだ未熟なので、今は一体だけだけど、そのうち三体になれるそうだ。
そして、今出てきているのはフォンで、一度ケルベロスに戻ってからダンやショコラになることは可能なのだとか。
「ふたりも、あいさつしたいって。いい? ごしゅじんさま」
「そうなの? 私も挨拶したいわ」
「わーい!」
なによ、ちょっと可愛いじゃない!
フォンからケルベロスに戻り、またもや人型に。
イヌ耳黒髪の赤い瞳までは一緒だったけど、今度はちょっとツリ目気味の子だった。またもや全裸の。
「よう、くさいごしゅ――――いでぇぇ!」
これは、大切な教育的指導です。
「はい、ごめんなさい。しょこらとこうたいする」
そう言ってまた入れ変わると、今度はタレ目の子だった。
とにかく、ずっと全裸で出てくるから、どうにかしないといけないなぁとは思いつつも、挨拶を先に済ませようと思う。
拳を用意して。
「るゔぃちゃん! すきぃー」
ひしっと抱きつかれた。
ナニコレ、可愛い。
「ショコラなの?」
「しょこらなのー!」
ショコラはちょっとアホの子っぽかったけど、一番可愛かった。ニヘニヘ笑って、顔を私のお腹にスリスリと寄せてくる。
ポンポンと頭を撫でてあげれば、上を向いて更に満面の笑み。
「しょこらがね、るゔぃちゃんといっしょにいたいって、ふぉんと、だんにいったの! そしたらね、ふたりともいいよって!」
ほほほほほう!? ナニコレ、可愛すぎるんだけど!?
全裸だけどもっ!
「取り敢えず、服を着せないと……犯罪臭い」
「ふくー? できない」
――――出来ない?
「む? 作り出せないのか」
どうやらまだ服などは魔力で作り出せないらしい。っていうか、魔力で作り出せるという方に驚きだけど。
「……俺も着替えているが」
「え? あ、ほんとだ!」
そういえば、偽ヒヨルドから謎イケメンになったときは、何か違う服だった。
そして、今はまた魔王の服になってる!
「……取り敢えず、これを着せておけ」
ぺぺっと渡されたのは、人型のフォン・ダン・ショコラにピッタリサイズのズボンとシャツとエプロンだった。
なんで持ってるの? 児童サイズの、服を。
「いーだだだだ! 魔力を練って作ったのね!?」
またもやアイアンクローされた。
これは怒られても仕方ないので、甘んじて受け入れる。
フォン・ダン・ショコラと同レベルに口を滑らすなとかは、聞こえなかったことにする。
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