5:道端でとっ捕まえた。
ストック作りの終盤で、氷系の魔法が使える魔族が必要だと気付いた。
この世界には、冷蔵庫も冷凍庫もない。
凍らせたりキンキンに冷やすためには、魔法でやるしかないのだ。
「さて困った……」
「「ワフン?」」
「あんた、氷魔法とか使える?」
フォン・ダン・ショコラに聞いたけれど、頭をブンブンと振られた。
この子、なんの役に立つの? ずっとエサ食べてるだけなんだけど。まあ、身体は一つだからそんなに食事量はないけども。
ケルベロスって愛玩動物なの?
「「くぅぅん」」
全部口から漏れていたらしく、フォン・ダン・ショコラが項垂れてトボトボと店外に歩き出した。
キッチンや貯蔵庫には絶対に入れないけど、店内は自由にさせている。基本的に床で寝てるだけだし。
元の世界にはドッグカフェとかあったから、それくらいは許してもらおう。
トボトボと歩くフォン・ダン・ショコラの後を興味本位でついていくと、急に白いうさ耳の少年に体当たりをして押し倒した。
「ぎぃやぁぁぁ! ケル、ケル……ケルベロスゥ!?」
「ワフ! ワフワフ!」
フォンとダンが少年の服をガッチリと咬み、ショコラが私に向かって何かを言っている。
…………もしや?
「きみ、氷魔法とか使える?」
少年の顔がみるみるうちに真っ青になり、コクコクと頷くばかりだった。
私がどこぞのヤンキーのような座り方をして、少年と目線を合わせたせいじゃないと信じたい。
「いやぁ、しかし、運命的な出逢いだったね!」
とっ捕まえた直後に色々と説明をして賃金を払うこと、ご飯を出すことを条件に、デザート作りの要である冷却を手伝ってとお願いしたら、了承してくれた。
フォン・ダン・ショコラが初めて役に立った瞬間だった。
「運命的でたまるか! 完全に災難だよ! 人間って怖ぇぇぇぇ」
……まぁ、無視でいいか!
「「わっふぅー」」
「まじかよ……怖っ」
ウサ耳少年――ヒヨルドはカウンターの向こうでワフワフと何かを言うフォン・ダン・ショコラと会話していた。
「ねぇねぇ、みんななんでケルベロスと会話できるの?」
「あ? 魔力込めて話せば伝わるだろ?」
「あ…………なるほど」
つまりは、私には一生無理なやーつね。
はぁ、残念。
ま、いいけど。
フォン・ダン・ショコラは私が魔界の森で魔獣たちをバッタバタとなぎ倒していた話と、私のことを『臭い』と言ったせいで教育的指導を受けたときのことを話しているらしい。
教育的指導は自業自得じゃない。
「よし! 出来た!」
「やっとかよぉ。マジで腹減ったんだけど!」
「はいはい、ありがと。カウンターに座って待ってて」
貯蔵庫に行き、少し深みのあるお皿にご飯とカレーをよそう。ヒヨルドに差し出すと、目を丸くされた。
「え、めっちゃいい匂いがする!」
この世界には普通にカレーがあったはずだ。
コミックの中でヒロイン(妹)がお忍び下町デートで『一度食べてみたいと思ってたんです』とか言うセリフがあった。
もしや、ヒヨルドは一般的なものも食べれないほどに貧しいとか!?
いや、まさかね? 普通に普通の服も着てるし。
いやいや、まさか、ねぇ?
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