魔導騎士ジョシュ−5
アレックスは魔法省の前でピュセーマを呼ぼうとすると、ジョシュが歩いて行ける距離だと言う。
想像以上に近い距離にどちらの施設もあるようだ。
ジョシュの案内で移動し始める。
試験会場に使われる建物は魔法省の本当に目の前にあり、ジョシュが建物の入り口を指差して、時間通りに建物に来れば試験を受けられると教えてくれた。
思ったより大きい建物で、今も人が出入りしている。
普段は騎士や兵士が訓練に使っているので、中には入れないとジョシュが説明してくれた。
次に産業省へと移動する。
産業省は魔法省と似たような建物の見た目をしている。
産業省の中に入ると、魔法省の一階部分と殆ど同じ構造で受付が並んでいる。
違うのは産業省に来ている人は魔法省のようなローブを着た人は居らず、綺麗な服は着ているが、職人のような雰囲気が拭えない人が多い。
喋る声の大きさも魔法省より大きい声を出しているからか、産業省の受付付近は騒がしい。
魔法省と比べると来ている人の数が多いようで、空いている受付が殆どないようだ。
これはかなり待つ事になりそうだ。
ジョシュは目的地があるようで受付を素通りして行く。
アレックスはその後ろをついて歩く。
ジョシュは受付ではなく、階段の横に立っている警備員にネイサン・ド・ローウィを呼んで欲しいと伝えた。警備員はすぐに呼ぶので待っていて欲しいとジョシュに言うと、席を立って二階へ移動していった。
ローウィと付いているので、名前からしてジョシュの家族だろうか?
ジョシュに尋ねると、一つ上の兄だと言う。
ジョシュは三男だと言っていたから、次男という事か。
ジョシュと共に階段付近で待っていると、ジョシュに似た男性が階段から降りてきた。
ジョシュはローブで隠れているが、長めの髪をしているのに対して、階段を降りてきた男性は短めの髪をしている。
だが髪の色はジョシュと同じで、明るめの茶髪だ。
「ジョシュ、どうした?」
「マーティーの弟弟子が王都に来たんだ。アレックスをネイト兄さんにも紹介をしておこうと思って」
「そういう事か」
やはり男性はジョシュの兄だったようだ。
ジョシュからアレックスは紹介される。
アレックスの方を向いて自己紹介をしてきた。
「ネイサン・ド・ローウィだ。マーティーの弟弟子ならネイサンではなく、ネイトで構わない」
「いや、ですが……」
「マーティーには弟が世話になったからな。マーティーの弟弟子であれば、家族のように気軽に呼んでくれて構わない」
「はい……」
本当に兄弟子のマーティーは何をしたんだろうか?
マーティーへの疑問は積もるばかりだが、ネイトとジョシュの会話はアレックスを置いて進んでいっている。
アレックスが錬金術師の試験を受けるために王都に来たことをジョシュがネイトに伝えた。
ネイトが受付の方に顔を向けた後に、混んでいるようだから二階で手続きをしようと、アレックスとジョシュを誘って階段を登り始めた。
勝手に進んでいく話に戸惑いながらも、ネイトとジョシュに続いて階段を登っていく。
産業省の二階の構造は魔法省と少し違って、部署毎に区画が分かれているようだ。
広部屋の中に机が島のように並べられている。
廊下を歩いていくと、魔法省のように部屋が用意されており、ネイトが部屋の扉を開けると中に招いてくれた。
部屋は執務室になっているようだ。
ネイトにソファーに座るように勧められて、ジョシュと共にソファーへ座る。
ネイトは錬金術師用の試験に必要な登録をするので待っていて欲しいと言って、部屋を出て行った。
ジョシュから産業省や魔法省で行われる作業について聞いていると、ネイトが戻ってきた。
ネイトの手には魔導士用の試験と同じように、紙と魔道具を手に持っている。
ジョシュがネイトが持っている物は、魔導士の試験に使われている物と同じ物だと言う。
「錬金術師の試験は四日後のようだが、問題はないか?」
「ジョシュから聞いたんですが、何度でも試験は受けられるんですよね?」
「そうだ。不合格だったとしても何度でも試験は受けられる」
「それなら試験を受けようと思います」
「了解した」
ネイトが頷いた後、アレックスに魔道具と紙を渡してきた。
渡された魔道具に魔力を登録して、魔道具を返す。
ネイトが魔道具を確認すると、再び部屋を出て行った。
ネイトが居ない間に紙を確認すると、受験番号や試験当日に必要な物を確認していく。錬金術の試験は魔導士と違って準備する道具が若干あるようだ。
必要な道具を確認していくと、どの道具もアレックスは魔法鞄に入れて故郷から持ってきているので、問題はなさそうだと分かった。
ネイトが部屋に戻ってくると、アレックスが確認していた道具の心配をしてくれた。
アレックスが魔法鞄に入っているとネイトに伝える。
「魔法鞄は実技試験前に預けることになるので、事前に必要な道具だけ分けて手持ちで持っておくと良い」
「魔法鞄があれば不正が出来てしまうからですか?」
「その通りで、魔法鞄を使った不正が昔にあったようだ」
魔法鞄があれば当然何でも持ち込む事が可能だと、アレックスもすぐに気づいた。
試験課題が予想できてしまうのなら、先に作った物を魔法鞄の中に用意して、持ち込んでしまえば合格できてしまう。
錬金術師の試験について話が終わると、ネイトから困った事があれば尋ねてくるようにと言われたり、錬金術師の拠点について話をした。
話が終わった後はネイトと別れ、産業省を出て魔法省に戻った。
魔法省の前でジョシュと別れると、ピュセーマに乗って宿へと戻る。
宿に戻ると試験勉強をする事にして、錬金術や魔法について書かれた本を魔法鞄から取り出して読み始めた。
それから試験日までは宿に篭って勉強を続けた。
ピュセーマのために宿を変えることも考えたが、宿屋で知り合った客から大鳥が泊まれる宿について話を聞く事ができて、王都では大鳥が泊まれる宿の質はそう変わらないのだと教わった。
変えても意味がないのならとアレックスは宿をそのままにして、試験勉強をしていた。
試験当日。アレックスはピュセーマに乗って試験会場へと向かう。
「試験を頑張ってくるよ。ピュセーマ」
「チュチュン!」
元気の良い鳴き声は応援しているかのように感じる。
ピュセーマにお礼を言って撫でた後に、試験会場となっている建物に入る。
受付を済ませると、試験が行われる部屋へと案内された。
試験官が来て試験の説明が始まる。錬金術師の試験は筆記から始まって、筆記の合格者だけ残って実技の試験を受けるようだ。
筆記は時間がかなり余った状態で書き終える。
試験結果は合格だった。
試験の進行は早く、筆記の合格者だけ集められて実技の試験が始まる。
実技の試験はポーション作りだと説明された。ポーション作りは得意としている分野だ。
事前に素材は準備されており、道具は持参の物を使って作る事になるようだ。
自信がある分野な事もあって、一番最初にポーションを作り終わった。
最終確認をした後に、ポーションを試験官に持っていく。
色々と調べられて、合格と言われてあっさり試験は終わった。
試験官から国家資格の書類を受け取ったら帰って良いと言われて、書類を貰うと錬金術師として活動が可能になった。
合格できた事に安堵しつつも、想像以上に簡単だったので、これで良いのだろうかと拍子抜けした感じもある。
だがアレックスより随分と年齢が下の見た目が子供も試験を受けていたので、子供でも合格できる試験なのかもしれない。
試験会場となっていた建物を出ると、ピュセーマを呼んで合格した事を伝える。
ピュセーマは普段鳴かない歌うような鳴き声を上げた。
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