第41話 え!僕がやるの!? シズ視点

 トイレから出てきたらヒビキさんがいなくなっていた。


「あれ? ヒビキさんどこ行ったんだ?」


 玄関を見ると、可愛いスニーカーが2つ。アオイもヒビキさんも家から出てないな……アオイはお風呂に入ってるはずだし……。


 そんなこと考えて振り返ると、バスタオルを体に巻いたアオイが立っていた。


「うわっ!? ど、どうしたんだよそんな格好で!?」


 咄嗟に顔を背ける。背中から聞こるアオイの声は少しイタズラっぽいものだった。


「ヒビキさんが入ってきて脱衣所狭いんだもん」


「え、ヒビキさんが……?」


 そんなことになってたんだ。ってあれ? ヒビキさんってどうなの? すごく複雑な気持ちなんだけど……。


「あ、ヒビキさんオレみたいな・・・・・・感じになってるから心配しないで」


「アオイみたいな感じ? じゃあ精神的にも女の子になってるってこと?」


「うん。だから心配しないで大丈夫」


「それはそれで戸惑うけど……」


 タオルが擦れる音が止む。恐る恐る見ると、パジャマ姿になったアオイがドライヤーを差し出していた。


「ね、髪乾かしてよ」


「えぇ……?」


「いいじゃん! シズにしてもらいたいの!」


「まぁ……いいけどさ……」


 などと言いながらあっさりドライヤーをかける僕。部屋にドライヤーの音が響く。アオイの細い髪が、あっという間に乾いてサラサラになっていく。


 何だか妹……ミオが小さい時髪乾かしてた時のこと思い出すな。


 というか僕ってどうなんだ? 友達が女の子になったから好きになって、しかも妹いるのに、こんな風な女の子と……普通、妹がいると自分より年下の子好きにならないって言うよなぁ。


 僕ってもしかしてヤバいのか?


「シズ? どうしたの?」


 不思議そうな顔で僕を見上げるアオイ。大きな瞳に見られて一瞬ドキッとした。


「い、いや、何でもない」


 まあいいや。そもそも僕らの状況が普通じゃないんだから……僕の気持ちを普通に当てはめる方がナンセンスだよな。うん。そう言うことにしよう。僕は今目の前にアオイが好きだ。それでいいじゃないか。


 ドライヤーをクールに切り替えて冷たい風にする。これやっておかないと髪が痛むんだよな。昔母さんに散々言われたっけ。


「はい終わったよ」


「えへへ。シズにやって貰うのいいな。またやって貰おっかな」


 その時、脱衣所の扉がガラガラッと開いた。


「シズシズ!!! 背中が痒いのじゃ!! これ塗って欲しいのじゃ!!」


「何で裸!? ていうか僕がやるの!?」


 全裸のヒビキさんが飛び出してくる。反射的に顔を避けたら、その先に鏡があってモロに裸を見てしまった。


「待って待って!!」


 混乱してとにかく目を閉じる。


「保湿クリームならオレが塗ってあげるからシズに裸見せないで!」


「そう? じゃあアオイ頼むのじゃ」


 なんかすぐそこでアオイとヒビキさんがなんかやってる。


「ヒッ!? アオイの手冷たすぎじゃ! やっぱりシズシズ塗って〜」


「ダメダメダメ!! 絶対ダメえええええ!!」


  僕はどうしたらいいんだ……!?


 と言うか家に幼女化した2人がいて……ってこの状況はなんなんだ!!



 結局、散々揉めて、それでもヒビキさんが折れないから、僕が保湿クリームを塗ることになった。


「ほら? 儂の肌スベスベじゃろ? もっと触りたいとか思ってもいいんじゃぞ?」


「……」


「い、いやぁ〜どうかなぁ〜はは……」


「顔が赤いのじゃ! ちょっとその気?」


「……」


「そんなことないですよ〜ははは」



 ……。



 アオイにすごく睨まれた。

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