第40話 お風呂にのじゃロリ! アオイ視点

 夕飯の前にお風呂に入った。


 シャワーが髪を伝っていく。最初は鬱陶しかったけど、この感覚も随分慣れた。


「はぁ……ヒビキさんが丸一日一緒にいると疲れるよ」


 ゲームの遊び方も一から十まで全部説明して、のじゃのじゃうるさいし……。


 頭と体を洗って湯船に浸かる。風邪引くと大変だってシズに言われて、湯船に積極的に入るようになったけど中々いいな。リラックスできて。


 ピチョンピチョンと天井から落ちるしずく。それを頭に当てるのを意味も無くやってしまう。


 ピチョン。


 寝る時どうしよっかなぁ。ヒビキさんに布団貸してシズに一緒にベッドで寝てもらうのがいいかな。


 ピチョン。


 ふふ。それだったらシズにギュ〜って抱き付いて寝られる。それはむしろアリ?


 ピチョン。


 そしたら、お互い意識しちゃって……ヒビキさんがいるのに……ってなったらどうしよう! ヤバ! 期待しちゃうじゃん!



 のじゃ。



 ……。



「のじゃ?」


「儂も入りたいのじゃが? ちぃと遅すぎんかアオイ?」


 声の方を見たらすっぽんぽんのヒビキさんがお風呂に入って来ていた。


 あ、ヒビキさんって細身に見えて意外にオレよりおっ……。


 って!? なんでヒビキさんが!


「ちょ!? 何勝手に入って来てんの!?」


「まぁええじゃろ。姉妹みたいなもんじゃし」


「誰が姉妹だよ! っていうかシズは!? 止めなかったの?」


「シズシズならトイレじゃぞ」


 ヒビキさんは不思議そうに首を傾げた。


「はぁ……ていうかどういう神経してるのさ。女の子がお風呂に入ってる所に乱入するなんて」


「だって儂も女の子じゃし」


「でも元……」


「なーんかこの姿になってからすっかり感覚とか変わっちまったのじゃ。女子おなご見ても何も思わんし」


 ヒビキさんもオレと同じなのか……というか体に精神が引っ張られるのかな?


「うぅ寒い寒い……ほらほらもうええじゃろ」


 そういってシャワーを浴びるヒビキさん。なんか頭洗う姿がぎこちない。


「なんか慣れてないね」


「髪長くて洗い辛いのじゃ。いつもはママが抱っこして洗ってくれるし」


「え!? ディーテに洗って貰ってるの!?」


「そうじゃぞ」


 ディーテ……なんでヒビキさんにはそこまでするんだろ?


「それってムラムラしたりするの?」


「ママじゃぞ? するわけないじゃろ」


 ヒビキさんがぎこちないながらもシャカシャカとシャンプーで頭を洗う。


「ふぅん。じゃあヒビキさんって完全に女の子なんだ」


「そのつもりじゃ」


「ふ〜ん」


「アオイは?」


「そのつもりだけど……」


「じゃ、いいじゃろ別に」


 頭と体を洗い終えると、ヒビキさんは長い髪をクリップて止めて、湯船に入ってきた。


「そのクリップどうしたの?」


「ママが買ってくれたのじゃ」


「ふ〜ん。なんかホントの母親っぽいなぁ」


「そうじゃろ? じゃから儂もママのこと好きなのじゃ」


 ザァーッとお湯が流れて、オレとヒビキさんが向かい合う。よく見ると、ヒビキさんの見た目って何となくディーテに似てるな。


「ヒビキさんの家族はその姿になったこと知ってるの?」


「儂の家族? もうみんなおらんぞ」


「え……」


「儂、子供おらんかったし。ばあさんが死んじまってから1人じゃ。親も兄弟もず〜と前に死んじゃったのじゃ」


 ヒビキさんのツリ目が遠くを見つめる。何だかその姿は昔を思い出しているようだった。


「奥さん亡くなってこと……寂しくないの?」


「ばあさんとは見合い結婚だったし……最後の方は、あの人が安心していけるようにずっと気を遣っとった感じじゃったな。最後はボケちゃっての。亡くなった時ホッとしたのを覚えておる」


「そう……なんだ。それからずっと1人?」


「そうじゃ。じゃからこの姿になって、ママができたのは嬉しかったの〜」


 ヒビキさんが大きく伸びをする。


「儂は母親に甘えた記憶も無いし」


「それはちょっとだけ気持ち分かるかも」


 オレの母さんも厳しい人だし……。



「だから今はこの姿のまま! あのママの娘として生きることにしたのじゃ!」



 何だか、すごく大変だっただろうことを軽く話す姿が、ちょっとすごいなと思った。オレもそうやって思える日が来るのかな……母さんのこととか。


「そっか。でも何となくだけど分かったよ。ヒビキさんがオレのこと姉妹だって言う理由」


「同じディーテママから生まれた姉妹じゃからな! 仲良くして欲しいのじゃ!」


 ヒビキさんが二ヒヒっとイタズラっぽい笑みを浮かべる。


「仕方ないなぁ」


「仕方ないとはなんじゃ!?」


 ヒビキさんがお湯をかけて来る。顔に直撃してイラっとしたのでオレも思いっきりお湯をかけた。


 いつの間にかお湯の掛け合いになって……気が付いたらどうでもいい話をしてた。



 ヒビキさんにちょっとだけ優しくしてあげようかな。


 ピチョンっと降ってくる水滴にあたりながら、そう思った。


 



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