第39話 誰か来た!? アオイ視点

 シズと同棲を始めて2日が立った。もう幸せすぎて1日があっという間。シズも甘えて来てくれるようになったしずっと胸の奥がポワポワしっぱなし。気を抜くとすぐ顔がニヤケちゃう。


「何笑ってるのアオイ?」


「う? えへへ、いやぁ……」


 不思議そうな顔をしたシズが朝食を出してくれる。半分に切った食パンにサラダに目玉焼き。こんなちゃんとした朝ごはん作ってくれるなんて……流石シズ。ますます好きになっちゃう〜!


「なんか怖いなぁ……」


 ふふふ……そんな困った顔しててもオレが主導権持つとオロオロするくせにぃ♡ それが可愛いんだけど〜。


 ピンポーン。


 なんて考えてたらインターホンが鳴った。


「あれ? 宅配便かなんか頼んだ?」


「なんにも頼んでないよ」


 ピンポーン。


 再び鳴るインターホン。


 「ちょっと覗いてみるか……なんかの勧誘だったら嫌だし」


 シズが覗き窓を見る。その瞬間。



 ピンポーン。



 またチャイムが鳴った。


「えっ!?」


「ど、どうしたの!?」


「外に誰もいないのにチャイムが鳴った」


 誰もいないのに?


「も、もしかして幽霊!?」


「そ、そんなはず……」



 ピンポーン。


「ま、また鳴った……っ!?」


「怖いよぉ!!」


 怖すぎてシズの背中に捕まる。ブルブル震える体を押さえていると、急にドアがドンドン叩かれる。


『おらんのかぁ? アーオーイーちゃん! あーそーぼ!』


 外から聞こえる甲高い声。その声になんだか聞き覚えがあった。


「あれ? この声って……アオイ、開けてもいい?」


「うん」


 シズが恐る恐るドアを開けると、そこには背中まで髪のあるツリ目の女の子が立っていた。やたらフリフリしたワンピースを着て、背中に小さいリュック。手には紙袋を持って。


「あ! やっぱりおったのじゃ! なんで無視するんじゃ! 寂しいじゃろぉ!?」



 大きな声で怒るその子は、ヒビキさんだった。


 なんだ……背が低くて見えなかっただけか……。


「すみません! 覗き穴から見えなかったから怖くなっちゃって!」


「なんじゃあ? シズシズも慌てん坊じゃのぉ〜。ほいこれ。つまらんもんじゃが」


 ヒビキさんが紙袋を渡して来る。覗き込んでみると、駅前の洋菓子屋さんの名前が書いてあった。


「ま、中身は詰まっとるがの。違うか! 違うか! ニャはははははは!!」


 う、ウザい……。



「それはそうと入ってよいかの?」



「ま、まぁいいよ。入ってよ」


「すまんの〜! ホラ、わし、友達おらんし。アオイだけが唯一心を許せる姉妹なんじゃ」


「誰が姉妹だよっ!」




◇◇◇


 ヒビキさんは家に入るなり、オレのゲームやカードを物色し始めた。


「わわっ! なんじゃこれ!? 面白そうじゃの!」


「ちょっ! オレの勝手に触んないでよ!」


「えぇ〜? 儂こういうのやったことなかったしぃ。憧れとったのじゃ。な? ちょっとだけ触らせて欲しいのじゃ♡」


「う〜仕方ないなぁ……」


 ハラハラしながらヒビキさんにゲームをやらせていると、シズがヒビキさんのお土産をお皿に載せて出してくれた。赤、青、緑、黄色に紫。色んな色の丸いのが並んだお皿を。


「マカロンじゃん。すご!」


「マカロンって、ヒビキさんぽくない感じだなぁ」


「ママがの、選んでくれたのじゃ〜」


 ディーテか……お土産のセンスいいな……でもマカロンかぁ〜! 先輩に貰った時以来だから嬉しいな!


「じゃあ早速いただきますヒビキさん!」


「どうぞ食べるのじゃ。ほれ、シズシズも!」


「い、いただきます」


 赤色のマカロンを食べる。パリッとしたようなフニャッとしたような歯触りの後にラズベリーの甘酸っぱい味が口の中に広がった。


「ウ⭐︎マーイ! オレこんなの初めて食べた!」


「なんだこれ!? 美味しすぎる!」


 あまりの美味しさにシズと2人で叫んでしまう。


「良い反応じゃなぁ。やっぱりママのセンス良いの!」


「あ、そういやディーテは?」


 この前みたいに家のことしてるのかな?


「それがのぉ。ママは明日まで用事があるらしいのじゃ。だから今日泊めて貰おうと思っての」


「は? 泊まるってオレの家に?」


「そうじゃ! 泊めておくれ♡」


「い、嫌だよ! せっかくシズと暮らし始めたばっかなのに!」


 そういうと、ヒビキさのツリ目がウルウルと歪み始める。


「そんなぁ……儂をあの広い家で1人にする気か? 寂しいのじゃ寂しいのじゃ! 泊めて欲しい〜! お願いじゃぁ〜!」


 バタバタと駄々をこねるヒビキさん。そんな姿を見てシズが困ったような顔でオレを見た。


「なんだかかわいそうだし泊めてあげたら?」


「えぇ〜? でもぉ……」


 シズを台所まで連れて行く。


「シズとイチャイチャしたかったのに……」


「うぇ!? ま、まぁ……でもさ、1日だかのことだしさ」


「う〜分かったよ……確かに、かわいそうだし……」


 うずくまるヒビキさんの肩を叩く。


「いいよ。泊まっていきなよ」


「ホントか? やったのじゃ!」


 パッと明るい顔になるヒビキさん。


 切り替え早いな……もしかして上手く乗せられた?


「嬉しいの〜! 何をして遊ぶかの〜!」



 こうして、ヒビキさんがウチに泊まることになってしまった。

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