第34話 のじゃロリ現る

 母さんから電話があってから1週間。


 無事にテストも終わって、なんとかオレは春休みを迎えられることになった。


「はぁ〜今期は大変だったぁ」


 近くのコンビニへアイスを買いに行こうと思って家を出た。園芸店の前を通って信号を待っていると、顔がドンドンニヤけて来る。


 ふふふ。大学の春休みは長いしぃ〜シズと何して遊ぼっかなぁ〜。



 イチャイチャしたいし……他にも色んなことを……。



「んん? な〜んかアイツ・・・の気配を感じるの〜!」



 急に後ろから甲高い声が聞こえた。



 振り返ると、オレよりも少し背の低い女の子が怪訝な顔でオレのことを見ていた。ツリ目で背中まで髪のある女の子が、なぜかダボダボのトレーナーを着て。


「ん? オレに何かよう?」


 その子がズイッとオレの顔に近付いて来る。


「お前さん。もしかして……女神・・ってヤツと知り合いか?」


 女神?


「え、なんで?」


「なーんかそんな気がしたのじゃ。わしは霊感強いからの〜」


 腰に手を当て「ほっほっほ」と笑う女の子。なんだか、その姿が妙に年寄り臭くて違和感があった。


 なんでこの子年寄りみたいな仕草を……。



 ……今、女神って言ってたよね?




「も、もしかして……探してるのディーテっていう女神?」


「そうじゃ! ディーテじゃ! 願い叶えてやるって言うから『若返らせてくれ』って言ったらの。こんなちんまい姿にされたのじゃ。しかも女子おなごじゃし」


「えぇ!? じゃ、じゃあアンタも?」


「アンタとはなんじゃ! 儂には響っていう名前があるのじゃぞ!」


「ヒ、ヒビキ……さん?」


「綺麗な響き・・じゃろ? あ、違うか! 違うか! にゃハハハハハ!」


 1人で笑い転げるヒビキさん。その親父ギャグで中身がじいさんだと1発で分かった。


「コホン。で、若返ったのはいいんじゃがこのままじゃ難儀でのぉ。せめて青年くらいにしてくれって頼もうと思って探しておるのじゃ」


「は、はぁ……」


「ま、ちょうど良かったのかもしれんの。年々動けなくなってたし、儂。今の韻を踏んでたんじゃが分かる? にゃハハハハハ!」


 う、ウザイ……。


「もしかして、お前さんも一緒なのか?」


 一緒? あぁ。女の子になったことか。


「うん。オレもだよ。中身は18。元は男だったよ」


「18ぃ!? そうか、それは大変じゃのう……」


 なんか急に憐れみの目で見てくる響さん。なんかそんな顔で見られたくないんだけど。



「色々大変じゃろ? 性欲とか」


「初対面でそれ心配するの!?」


「そりゃあの。ま、儂はもう性欲も死んだようなもんじゃが。にゃハハハハハ!!」


 わ、笑っていいのか分からない……。


「でも、ディーテかぁ。オレも居場所聞きたいくらいだよ」



「そうなのじゃ……困ったのう……」



「どこにいるんだろうなぁ〜地球の裏側にいたりして……」


「そうなったら困るのぅ…-」



「あらぁ? 私のこと読んだ?」



「そうなんだよ。ディーテに早くオレの戸籍を……って!? ディーテ!?」


 振り返った瞬間ディーテの胸が顔に押し付けられた。


「ふるひい! 離して!!」


「え〜? 我が子も同然の幼女ちゃんを抱きしめちゃダメなのぉ!?」


「プハッ! 誰が我が子だよ!」


「でも残念ねぇ。幼女ちゃんの願いは叶え終わっちゃってるわよ?」


 くっ!? シズがいない時に限って……っ!? シズがいればオレの戸籍を頼んで貰ったのに!?



 なんてタイミング悪いんだ!



「のじゃロリちゃんはどうしたの? 私を探してたみたいだけど」


「の、のじゃロリ……?」


 困惑した表情の響さん。彼女は顔をブンブンと振って、もう一度ディーテの方を見た。


「そうじゃ! 儂をもう少し成長させておくれ! 18くらいに!」


「ダメ。叶えられる願いは1人につき1回までよ」


「そ、そんな殺生な……儂これからどうやって生きていけばいいのじゃ? 婆さんにも先立たれて広い家・・・1人暮らし・・・・・。じゃし」


 響さんがそう言った瞬間、ディーテの目がギラリと光った。


「なに? のじゃロリちゃんの家って広いの?」


「そりゃあのう。儂、一応事業しておったし。金はある」


「ふぅん」


 なんだ? ディーテがなんだかソワソワしてるぞ?


「私もそろそろ外で寝るのもキツくなって来たのよねぇ……ね、のじゃロリちゃん。私がママ・・になってあげようか?」


「ま、ママ……じゃと?」


「そう♪ 家に住まわせてくれたら色々お世話してあげるわ」


「ホントかの!? 嘘じゃないじゃろうな!?」


「願いの神は嘘なんか吐かないわよ〜」


「買い出しは?」


「一緒に行ってあげる♪」


「用事があった時は?」


「もちろんやってあげるわよ♪」


「り、料理もしてくれるかの? もう何年もインスタントばっかりで飽きてたのじゃ!」



「いいわよ〜ついでに添い寝もしてあげるし、一緒にお風呂も入ってあげる♪」



「マ"マああああああああ!!」



 響さんがディーテの胸に飛び込んだ。



「あらあら♪ じゃあのじゃロリちゃんはママと一緒に帰りましょうね〜」


「帰るのじゃ〜♪」


 そう言いながら、ディーテと響さんは夕焼けの中へ歩いて行った。



 何も考えずに見ると、豊満な体の母親と髪の長い幼女にも見え……いや、なんだか歪んでるな。



「な、なんだったんだ……今の」



 ……。



 あ!



「響さんの住所、聞いとけば良かった……」

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