第33話 母親から電話? シズ視点

 ブブッ。


「アオイ? スマホ鳴ってるよ」


「え、通話? なんだろ?」


 アオイがスマホを見る。すると、みるみるうちに顔が真っ青になっていく。


「し、しししし……」


「どうしたんだよ?」


「シシシズシズシズこここれれ!!」


 アオイがスマホの画面を見せて来る。表示されているのはメッセージアプリの通話画面。コール中になっているそこには「母」と表示されていた。


「か、母さんからだ!!」


 アオイ、今声も完全に女の子だしな……出られる訳無いよな。


「し、シズ出て! 代わりに!」


「え!? 出たら絶対アオイに変われって言われるだろ!?」


「じゃ、じゃあオレのフリして出て!」


「出ずにメッセージだけで……いや、絶対また電話かかって来るよなぁ」


「そう! だからお願い!」


 続けば様子を見に来るかもしれない……か。


 仕方ない。誤魔化せるかな?


 スマホを預かって通話をタップする。耳に当てると、聞き覚えのある女性の声……アオイのお母さんの声がした。


アオイ。貴方正月から一度も連絡して来ないけどどうなの? 成績は? ちゃんと単位取れるんでしょうね?」


 おばさん……最初に聞くのが成績なんだ……。


 ……。


 そういえばアオイ、テストはどうするんだろう? でもこの場でおばさんを不安にさせるのは悪手だよな。


「し、心配しなくても大丈夫だよ母さん」


「そう? 貴方そう言って高校の時の成績悪かったことがあったわよね? 貴方の心配無いは信用できないのよ」


 誤魔化せているみたいだけど、これは……。


「貴方が入りたいと言った大学なんですからね? 留年なんてしたら一生許しませんから」


 アオイの方を見る。そこには女の子が心配そうな顔でこちらを伺っていた。


 少しだけ、ムカつく。アオイの状況知らないから当然なんだけど。もうちょっと他に言うこと無いのか。


「分かってる。何も問題無いから」


「そう。それならいいけど。テストが終わったら連絡しなさいよ」


 そう言うと、通話は切れてしまった。


「か、母さんなんか言ってた?」


「単位落としてないかって」


「そう」


 ションボリするアオイ。この姿になっても親に相談できなかった気持ち、ちょっとだけ分かった気がするな。


「大丈夫?」


「なんとかなる……と思う。テストもなんとか受けられそうだし」


「え、どうやって?」


「うん。先輩さ、職員さんに知り合いがいて、事情説明してくれたんだ。教授も理由付けて説得してくれたみたい」


 職員さんも教授もよく信じたな……先輩の言うことって何故か信じる人多いよなぁ。


「で、でも良かった。それならテストも心配無いか」


「うん。後は点取るだけ」


 その割にアオイの表情に元気が無い。おばさんのことまだ気にしてるんだろうか?


「……やっぱどこかでは言わないとダメだよね」


「このままって訳にもいかないし、それは……」


「はは。オレ……めちゃくちゃ怒られるだろうなぁ……」


 苦笑いするアオイ。思えば昔もこんな場面を見たことがある。小学生の時。あの時はよくこんな顔をしていたな。おばさんとおじさんに怒られたって。


 そんなアオイを見ていたら胸の奥がズンと重たくなった。悲しそうな顔を見ているのは嫌だなと思う。


 何かしてあげられることは、無いかな。


 ……。


 そうだ。この前泣いてた時に……。


「アオイ」


「なに?」


「おいで」


 恥ずかしさを押し殺しながらアオイを呼ぶ。彼女は、急にオドオドし始めた。


「お、お、おいでって……?」


「あ、いや……この前だっこして欲しいって言ってたから、その」


「シズから言ってくれるなんて。ふ、ふふへふふふ……」


 ニヤニヤ笑うのを我慢したアオイが僕の膝の上に乗って来た。


「ふふ……やった」


 抱き付いて来たアオイの背中をさする。


「まぁ、さ。おばさんに言う時は僕もいるから」


「え?」


「だからそんなに心配しなくていいよ」


「うん……」


 アオイがグリグリも顔を押し付けて来る。それがなんだか可愛い。



「はぁ……安心する〜」



 嬉しそうなアオイの声。その声を聞くと自分も安心するのが分かった。

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