第20話
女子の家にお邪魔した経験など、彼女いない歴=年齢の俺には当たり前だがない。
だから鬼塚さんから「うちに来ない?」と誘われた時は天にも昇る気持ちだった。
だった、けど。
「あ、あの……ここで靴脱いでね。ううっ、ドキドキする」
と、彼女の家の広い玄関先で緊張した様子の鬼塚さんとは全く違う緊張が俺を包んだ。
外観から想像できる通りに、家に入ると広い玄関から広い廊下がのびていた。
一番奥が見えないほどに広い。
そして暗い。
ていうか、怖い。
入ってすぐのところに置かれたコウモリの標本? と、禍々しい絵。
そしてまだ昼間だというのに、日当たりのせいなのか驚くほど暗い。
灯りがなければ真っ暗なほど。
その灯りも捻ったらつくタイプの薄暗いもの。
なんだここは?
お化け屋敷か?
「あの、先にリビングでちょっとゆっくりする?」
鬼塚さんはそう言って、廊下の奥を指差した。
この奥に行くのか?
「ええと、ひ、広いね」
「うん、前も行ったけどうちって広くて暗いから怖いの。でも、橘君がいてくれると少し安心かな」
頼りにしてます、という感じで俺をチラッと見るけど、俺は完全なアウェイなわけで、どちらかといえば鬼塚さんを頼りたかった。
ただ、鬼塚さんの方が怖そうにしていたのでそんなわけにもいかず。
彼女をつれて、まだ見ぬ闇の奥へとゆっくり歩いていった。
しばらく、長い長い廊下を歩くと突き当たりに大きな扉が見えた。
「こ、この扉の向こうがリビング。ええと」
重そうな扉をグッと押すと、重い音を立てながら扉が開いた。
「わあ、広い」
部屋を見た感想が思わず口から漏れた。
洋風なテーブルとソファ、それにグランドピアノまで置いてあって、実際に行ったことなどないが、どこかのラウンジだと言われても信じてしまいそうなほどの綺麗なフロアだ。
「でもね、ここって誰も使わないの」
「え、なんで? こんなに広いのに」
「んー、お父さんは仕事でほとんど家にいないし、お母さんもそんなお父さんを週末は追いかけて家にいないこと多いからね。それにここ、日当たりがいいから。お母さん、吸血鬼だし」
吸血鬼。
久しぶりにその言葉を鬼塚さんから聞いて、俺はふと我に返った。
そうだ、俺は今、吸血鬼の総本山に来ているのだ。
鬼塚さんの家で二人っきりだからワンチャン何かあるかもなんて期待より、向こうがワンチャン狙ってないかを警戒しておかないと。
「ここ、座ってて」
鬼塚さんに言われて、俺はソファへ。
ふかふかの座り心地に驚いていると、鬼塚さんは「ちょっと待ってて」と。
一度部屋を出て行った。
一人でしばらく待たされる。
静かな、広い部屋で俺は少し緊張していた。
戻ってきた時、鬼塚さんが急に俺を襲ってこないか。
もしかしたら吸血鬼だという母親を一緒に連れてきたりしないか。
そんなことを考えているうちに冷や汗が出てきた。
そして。
再び扉が開いた。
「お、お待たせ」
「……鬼塚、さん?」
「あ、あの……これ、しない?」
彼女が手に持っていたのは……テレビゲームだ。
「あ、ああ、うん。鬼塚さんもゲームとかするんだ」
「うん。パズルゲームくらいだけど、よかったらどうかな」
そそくさとテレビにそれを繋ぎ始める彼女を見て、俺は少し反省した。
鬼塚さんが俺を襲うつもりなら、こんな周りくどいことなんかやる必要がない。
今は多分、俺と普通に話をして、遊んで、それこそ襲うつもりなんてないんだとわかってほしいだけなんだ。
気を遣わせちゃってるんだな。
俺も、気をつけないと。
「よ、よし。じゃあ早速やろっか。俺、結構得意だよそれ」
「ほんと? うん、やろやろ」
肩を並べてソファに座り、コントローラーを持って画面を見る。
得意なんて言ったものの、パズルゲームなんて久しぶりだ。
でも、こういうのもワクワクする。
それに、相手があの鬼塚さんだし。
ほんと、吸血鬼ってことを除けば死ぬほど可愛いし、優しいし、やっぱ可愛いし。
それに、もし俺のことを好きになってくれたら彼女だって。
愛する人を殺そうなんて思わないはず。
そうだ、それだ。
鬼塚さんに吸血されないためには、俺が彼女の好感度を上げればいいわけだ。
今は餌でも。
恋人に昇格すれば……。
よし、そうと決まればこのゲームも頑張っていいところみせないと。
うん、頭が冴えてるぞ俺。
吸血鬼の鬼塚さんは俺の血を狙ってるだけなのに、なぜか一緒にいるとラブコメ展開になってくる件 天江龍 @daikibarbara1988
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