第19話
毎日一緒にご飯が食べたい。
それはつまり、毎日一緒にいたいということ、だよな?
それってつまり、俺のことを……うん、そうに違いない。
いや、ここまで女の子に言わせておいて何も答えないわけにはいかないだろ。
さっきは言いたいことが少ししか言えなかったけど、やっぱりちゃんと伝えなきゃ。
俺も毎日、君といたいって。
「鬼塚さん、俺も」
「私、橘君といるとご飯が美味しいの!」
「うん、俺も……ん?」
「こ、こんなにご飯が美味しいの初めてなの! 橘君の匂いがするとね、すごく食欲が湧くの! だ、だから嫌じゃないなら毎日ご飯一緒に食べてほしいの、ダメ?」
「あ、いや、そ、それは全然、大丈夫だけど」
「う、うん。ち、ちょっともう一度お手洗い行ってくるね」
「あ」
慌てた様子で鬼塚さんは席を離れていった。
俺は前のめりになった体を逸らして、背もたれに体を預けた。
「はあ……んなわけないか」
てっきり告白されたものだと勘違いしてしまったけど。
やっぱり、そんなわけはなかった。
俺の匂いを嗅ぐとご飯が美味しくなるってことはつまり、吸血鬼の彼女にとって、俺がご飯のお供として優秀という意味なのだろう。
血を飲まなくても。
俺は食材にならなくても最高の調味料だと。
……なんじゃそれ。
「はあ……道のりは長いな」
♡
「私のバカ、バカバカバカ」
鏡に映る自分を罵倒しながら項垂れた。
君とずっと一緒にいたいって、そう言いたかったのに。
恥ずかしくてテンパってつい、訳の分からないことを口走ってしまった。
橘君の匂いを嗅ぐとご飯がすすむって何?
もちろん本音なんだけど、そんなこと言われたらまた彼が引いちゃうかもしれないのに。
はあ……バカだな私。
毎日、一緒にいたいって言いたかっただけなのに。
お腹いっぱい食べていいよって言ってくれる橘君のそばにずっといたいのに。
……でも、本当にお金の心配もしておかないと。
いくら我が家でも、毎日外食してたらさすがに色々言われるだろうし。
私自身、自分をコントロールするために食事も少しずつは控えないとだし。
何かいい案は……そ、そうだ。
「……でも、嫌がられないかなあ」
♤
「がうがうがう、ぱくっ、はむはむ、ゴキュッ! もしゃもしゃ……ん、おいひい」
戻ってきてすぐ、サンドイッチ五人前を上機嫌に貪る鬼塚さんの様子に俺は胸を撫で下ろした。
やっぱり、この方が彼女らしい。
「はあ、生き返ったー。ねっ、この後どこ行く?」
「んー、どこか行きたいところとかある?」
「じゃあ、本屋とかは?」
「いいよ。でも、駅前からは離れちゃうけどいいの?」
「駅前に何か用事あった?」
「あ、いや。お昼に行きたいって言ってた洋食屋さん、すぐ近くだからさ」
本屋に行ってまた戻って、というので大丈夫ならそれでいいけど。
「そ、そのことなんだけど……あの、洋食屋さんはまた今度にしない?」
「え、いいけどいいの? 楽しみにしてたんじゃ」
「そ、そうだけど……それはまた今度ってことで」
何か言いたそうにもじもじする彼女は、やがてゆっくりと顔を上げてから。
その白い頬を真っ赤にして。
言った。
「今日は、うちでご飯食べない?」
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