幕間 


「ご、ごめんなさい!つい、出来心で約束を破ってしまいましたーーーー!ぐべっ!?────…………」

「……本当この子は私の言うことを聞かないわよね」


 白目を剥いて地面に伏している伊吹を見て、私は大きな溜息を吐いた。

 昔からこの子はそうだ。

 私が一緒にゲームをしようと誘っても無視して勉強するし、私が買い物に誘っても無視して勉強するような子だった。

 ……いや、冷静に考えたら受験シーズンだったから当然の反応だったかもしれないわね

 でも、まぁ、うん。とりあえず、言うことを聞かない子だったのは間違いないわ。


『何してるの伊吹!?戻りなさい!」

『心姉ちゃんごめん。すぐ戻るから』


 だから、あっちに行ってからも本当に苦労させられた。


『伊吹。貴方何処行ってたの?』

『あっ、えっと、そのちょっと、敵の後ろを取ろうとして、敵の別動隊に追い回されてました』

『この馬鹿っ!?アンタは後衛職なんだから奇襲なんてしようとするんじゃないわよ!大人しく後ろで守られてなさい』

『す、すいません』


 私達に何の相談もせず、制止の言葉すら振り切って、勝手に突っ走って、いつもいつも心配させられた。

 正直、心臓が止まると思った回数は両手で数えきれないわ。

 あの頃に比べれば、さっきの命令違反は可愛い過ぎるけどね。

 まぁ、だからと言って見逃すかと言われるとそれはそれ。

 これはこれ。

 教師として姉として、──として、しっかり咎めなければならない。

 

 私は持っていた長机を設置して、その上に伊吹を寝転ばせると「真帆ちゃん。後はよろしくね」と教え子の名前を呼んだ。

 すると、何処からともなくスッと気怠そうな美少女が現れた。

 あっちで何度も見てるけど、相変わらず転移魔法って便利よね。

 一瞬で好きなところへ行けるのが心底羨ましい。

 朝と帰りの渋滞を回避できるし、いつでも伊吹の部屋に忍び込めるとかチート過ぎるわ。

 

「まぁ、私は合法的に入れるから必要ないんだけど」

「マウントうざっ。教師の癖に大人気ない」

「あら、ごめんなさい。そんなつもりは無かったのよ」


 ジロリとした目を向けてくる教え子に私は肩をすくめる。

 本当失礼しちゃうわね。

 全然いつでも彼の寝顔や脱ぎ立てパンツを堪能出来ることに嫉妬したとか、いつでも水着デートが出来ることに嫉妬したとか、すぐにラブ○に連れ込むことが出来ることに嫉妬したとか、大人の私がするなんてあり得ないわ、えぇ。

 

 しばらくの間、睨まれる時間が続いたけれど、やがて何をしても無駄だと悟ったのか、真帆ちゃんは諦めたように息を吐いた。

 

「……そう。それにしても、学校で仕掛けてくるとは思わなかった。おかげで、結界を貼るのが遅れて、ちょっと騒ぎになりかけた」

「騒ぎになりかけたって?今は落ち着いているの?」

「問題ない。のどかが、魔法で眠らせて、記憶は改竄済み」

「あら、手が早いわね。ありがとう。けど、ここまで直接的に動いてくるとなると早急に対策を講じないといけないわね」


 そう言って、私は地面に落ちている人型の半紙を拾う。

 これはおそらく陰陽師が使っている式神でしょうね。

 せっかく平和な世界に戻ってきたと思ったら、実はこっちの世界もファンタジーだったなんて本当頭が痛い。

 私達はただひっそりと好きな人と過ごしていたいだけなのに。

 あっちの世界でも思ったけど、強過ぎる力を持っているというのは面倒ね。

 私は色々と考えていると、校舎を治し終えた真帆ちゃんが黒いオーラ発した。


「対策?そんなぬるい考えじゃ、駄目。敵は潰す。特に、伊吹を傷つけた相手は、処す。燃やして、凍らして、切り刻んで、この世に生まれたことを後悔させるべき」


(本当にこの子達は伊吹のことが好きよね)


 昨日もそうだったけど、伊吹のことになると真帆ちゃん達は盲目というか、歯止めが効かなくなっている。

 まぁ、あっちであんなことやこんなことをされたのだから、そうなっても仕方ないんだけど。

 我が弟ながら、ここまでたくさんの女の子をドップリ堕としてしまうとは恐れ入る。


(まぁ、かくいう私も惚れてるんだけど)


 私は心の中でそう自嘲すると、次いでスカートの中に隠していた剣の柄を掴んだ。


「えぇ、そうね。両手足を切り落として、馬鹿なことを考えようと思わなくなるくらい、ゆっくりと身体もプライドも刻んであげないと。

ねぇ、そう思うでしょ?伊吹の愛剣フラガラッハ?」


 そう言って、私は魔力に反応して現れた剣身を窓の外にかざすと、鈍く不気味に輝いた。


 



 あとがき

 久々の更新ですまぬ。原稿が


 



 

 



 

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異世界転移したくないから学校を休んだ 3pu (旧名 睡眠が足りない人) @mainstume

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