第3話 何故かお昼が一緒になる賢者様
破裂したはずの心臓が再生したのは四限目の終わり。
それまでの記憶は全くと言って良いほどない。
が、その間の授業のノートはしっかり取ってあって。
今更ながら習慣の素晴らしさを再認識した。
「はぁ〜」
とはいえ、当たり前と言えばそうなのだが身体の疲れがないわけではない。
それに加えて、精神的疲れもあり俺は机に伏せる。
それから何をするでなく、ボッーとしばらく教室の様子を眺めていると、急に白い山が現れた。
(デッカ!?)
あまりの大きさに慄いていると「物部、大丈夫?」と上から平坦な声がかかった。
それに寄って正気を取り戻した俺は慌てて視線を上げると、アメジストの瞳を持つ藍髪の美少女がいた。
「お、おう。
「そう。じゃあ、これあげる」
力無い笑みを浮かべる俺を見かねたのか、賢野はポッケに入っていたラムネ菓子を差し出してきた。
「良いのか?」
俺の記憶が正しければ、ラムネは彼女の好物のはず。
本当に良いのか?と視線で尋ねると、賢野は無表情のままコクリと頷いた。
「疲れた時は甘いものが一番」
「ありがとな」
温かい心遣いに感謝しつつ、封を開けとりあえず二粒ほど口に放り込んだ。
程よい甘味が口の中を広がり、僅かだが疲労感が落ちていく。
「どう?」
「美味い」
窺うような視線を向けてきた賢野にグッドサインを返す。
すると、彼女は「なら、良かった」と僅かに口元を緩めた。
超絶美少女から放たれたそれは破壊力が凄まじく。
思わず、腕に顔を埋めた。
(本当メインヒロインの癖にモブの俺にそんな顔を向けんじゃねぇよ!?惚れちまうだろ)
俺が脳内でゴロゴロとのたうち回っていたある時、ガタッと前から衝撃が走った。
何となく嫌な予感を覚えた俺は恐る恐る顔を上げると、俺の机に見覚えのない拡張パーツがドッキングされていた。
そして、その拡張パーツの上にはサンドイッチの袋が置かれていて。
賢野が小さな口でたまごサンドを頬張っていた。
思わず、俺は「何で机くっつけてんの?」と尋ねると、彼女はなんてことないように「私がそうしたかったから」と答えた。
流石は、無表情不思議系ヒロイン。
行動が突拍子もない。
(今まで一度も一緒に昼飯を食べたことが無いのにどういう風の吹き回しだ?)
彼女の行動原理を読み取ろうと、俺は脳を回転させる。
すると、賢野が普段聖さんとお昼を食べていたことを思い出した。
つまり、これは『退いてくれ』という彼女からのメッセージ。
「まぁ、別に学食行くから勝手に使ってくれても問題ないけどな。授業が始まる前には空けといてくれよ」
「っ!?」
俺は財布を持って席を立つと、賢野の瞳が見開かれた。
まるで、予想外のことが起きたと言わんばかりに。
どうして彼女がそんな反応をするのが気になったが、視界の端でお弁当を持っている聖さんが目に入って。
俺は教室を出て、学食へ向かった。
数分後。
「唐揚げ、うまっ」
おばちゃんから唐揚げ定食のトレーを受け取って空いている席に座ると、反対の席には見覚えのある少女が座っていた。
「何でいんの?」
何故自分よりも早く学食に着いているのか?
聖さんはどうしたのか?
後ろで伸びている男は何なのか?
という様々な疑問を含んだ俺の問いをぶつける。
「私がそうしたかったから」
「……そうか」
しかし、返ってきたのは先程と全く同じ答えで。
俺はそこで理解する事を諦め、揚げたての唐揚げに齧り付いた。
「お腹いっぱい」
「マジで何で来たんだよ?お前」
唐揚げの姿が二つ消えたところで、ギブアップ宣言をする賢野。
普段はサンドイッチだけで満足しているのに大丈夫なのか?と内心思っていたが、案の定だったらしい。
(本当何がしたいんだ、こいつ?勿体無いことするな)
冷ややかな視線を飛ばしながら、そんな事を考えていると目の前にずいっと唐揚げが近づけられた。
「食べて?」
無垢な瞳をこちらに向け、恐ろしい事を言ってくるメインヒロイン様。
この人通りが多い場所でよくそんなエグい提案をしてくるな。
お陰さまで、食堂のあちこちから殺気が飛んできたぞ。
「いや、自分で食えよ。学食代を出してくれた母ちゃんが泣くぞ」
「大丈夫。このお金は私が稼いだもの。お母さんは悲しまない」
「そう言う問題じゃねぇよ。もうちょい頑張れってことだ」
「なるほど。あむっ、がんふあっふぁ」
せっかく手に入れた二度目の人生を、前世と同じように幕を下ろしたく無い一心で、のらりくらり逃げようとしたが上手くいかず。
むしろ、賢野が唐揚げに少し齧り付いたせいで余計に状況が悪化している。
背中にのしかかる重圧が増したのを感じながら、俺はこの状況を打破するべく思考を巡らせた。
「俺もこれを食べるのでギリギリなんだが」
「そう。じゃあ、頑張って。リミットブレイクしよ」
何とか時間を稼ごうとしてすぐ、丁度よく光明が差した。
「人に頼むくらいなら先ずは自分でしろ!」
これ幸いにと俺は賢野の手を掴み、強引に彼女の口へ唐揚げをぶち込む。
まさか、自分が食べさせられると思っていなかったのだろう。
目を丸める賢野。
俺はその隙に、彼女の定食をひったくり胃の中に流し込んだ。
「ほらよ」
空になったトレーを返すと、賢野から「……ありがと」と少し小さな声が返ってきて。
その後、しばらく彼女は何故か自分の口元を受け取ったトレーで隠していた。
おまけ
「そこ退いてくれる?」
「真帆ちゃん!もちろん構わないけど、どうだい?こっちの席が空いてるからそっちに座って相席でも──」
「うるさい」
「──かはっ!?」
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