第2話 お隣の聖女様は距離感がおかしい
「じゃあ、次はオープンスクールの設営について説明するわよ。先ず、テントの運搬を──」
席替えが終わってすぐ、担任の
それから、カツカツという音だけが支配する教室で俺は一人身を縮こまらせていた。
理由は簡単。
クラス、学校内どころか世界的に見ても超絶美少女に入るヒロイン達に囲まれているのだ。
緊張しないわけがない。
その上、クラスメイト達からの視線が何故か俺に集中していることも相まって、本当にヤバい。
何でこいつら俺のことを見てくるんだよ!?
しかも、『美少女三人に囲まれて妬ましい』、『4ね』って感じな嫉妬の視線ならまだ分かるのだが、純粋にこちらの様子を窺っているのが不気味過ぎて、逆に身動きが全くとれない。
(……俺って来世では絶対に動物園に就職出来ないタイプだろうな。選考段階で落とされること間違いなしだわ。うん)
そのため俺に出来る事といえば、現実逃避くらい。
ピンッと背を伸ばした状態で、別世界の自分に想いを馳せていると、不意に肩をツンツンと右から突かれる。
「っ!?」
瞬間、俺は猫のように全身の毛が逆立ち、反射的にそちらを振り向く。
すると、そこには可笑しそうに肩を小刻みに振るわせる金髪美少女がいた。
「……ふふっ、すいません。驚かせちゃいましたね」
そう言って、悪戯な笑みを浮かべる聖さん。
俺は最推しに醜態を晒してしまったという事実に、急速に身体が火照っていく。
「……い、いや、そんなことはないが。なっ、なんの用だ?聖さん」
が、俺はそれをギリギリ身体の下だけで留め、平静を装ったが、自分でも分かるほどあまりにも
「……クスッ。そうですか。いえ、ちょっと物部君がどこのグループに行くのかな?と思いまして」
「……とりあえず、無難にテントの設営だな。毎年学校行事でやってるから作り方を完璧にマスターしてるし」
「……なるほど。ありがとうございます、参考にしますね」
笑みを深める聖さんを前に、完全に顔の方も沸騰。
それでも、なけなしのプライドで何とか捌きり、彼女の顔が黒板に向かったところで俺は机にへたり込んだ。
(本当最悪だ。聖さんに格好悪いとか見せちまったし、クラスの奴らにも見られてるとかマジ最悪すぎる)
それから暫くの間、顔を腕に埋め激しい羞恥に悶え苦しんでいると、ある時にプリントが頭の上に乗っけられた。
多分、先程先生が話していたオープンスクールに関するものが回ってきたのだろう。
だが、今のこのメンタル状況ではまだまだ顔を上げて読むことは出来ない。
そんなわけで俺はプリントを蓑にして、蹲っているとツンツンと右から突かれた。
「……物部君。少しいいですか?」
その後、最高に心地よいウィスパーボイスで自分の名前を呼ばれたが、俺はそれでも身体を起こすことは出来なかった。
何故なら、俺の名前を呼んだ相手は今最も顔を見たく無い人だから。
まぁ、別に彼女が悪くはないんだが、見たら先程の失態を思い出すのが分かっているので本当に無理。
でも、かといって無視するのも感じが悪い。
だから、俺は顔を伏せたまま「……なんだ?」と応対した。
「……ギリギリプリントが足りなくて、私のところまで来てないんですよ。だから、見せてもらってもいいですか?」
聖さんから告げられたのはなんて事ないお願い。
これくらいなら顔を伏せたままでも対応が出来る。
俺はその事実に小さく安堵しつつ、「……好きに使ってくれ」と言って頭の上にあったプリントを差し出した。
「……ありがとうございます!」
すると、何故か声色を少し弾ませる聖さん。
その後、俺の机からガツっと音が鳴った。
「ん?」
不可解な音が聞こえた俺は思わず顔を少し動かし机の様子を確認する。
何と、あらびっくり。
机の長さが二倍になっていた。
「……真ん中に置きたいのでちょっと左に寄って下さい」
「……お、おう」
予想外の事態に頭がフリーズし、とりあえず彼女の言われるがままに左にズレる。
それから、数秒後。
(えっ?俺もしかして聖さんと机をくっつけてる?)
今更ながらに事態を理解した俺は大いに戸惑った。
まさか、自分がメインヒロインとこんな青春イベントをすることになるなんて夢にも思っていなかったのだから仕方ない。
一瞬夢かと思ったが、ローズリリーのフローラルな良い匂いと、聖さんの息遣いによって、加速させられた心臓の音がどうしようもないくらい現実なことを知らせてくる。
(ヤバいヤバいヤバいヤバい)
再び頭が熱暴走を起こしているのを感じながら、俺は目をグルグルさせていると、突然サファイアの瞳がこちらを捉えた。
「……もう、物部君。ずっと伏せてたら心ちゃんに怒られちゃいますよ?」
小さな子供を叱るような優しい口調で聖さんはそう言うと、俺の両頬を両手で挟んだ。
そして、グイッと顔を起こされ、彼女の世界一可愛い顔面と強制的に対峙させられる。
「〜〜〜〜!?」
この世界最大級の
が、そんな状態では答えが出るはずもなく。
正解を出す前に、気が付けば聖さんの手は離れプリントに視線を落としていた。
その姿はあまりにいつも通りで。
まるで、先程の出来事など無かったのように思える。
けど、俺の頰には彼女に触れられた熱が確かに残っていて。
しばらくの間、俺は呆然と彼女の端正な顔を見つめることしか出来なかった。
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