第115話 ファミレス

 俺は小栗に連れられるがままに近くのファミレスに向かった。


「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

「5人です」

「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 昼時だが、どうやら席が空いていたらしくすぐに席に通してもらえた。

 案内された席はボックス席で、俺の隣には健一、正面に小栗、その隣に長谷川はせがわ九重ここのえが座った。


「やっぱり、早上がりの日の昼飯って言ったらここだよな」

「それは陽人はるとがここがいいっていつもいうからでしょ?」

「そうだぞ。たまには某ハンバーガーショップに行こうぜ」


 どうやらよくここに来ているようだが、いつも小栗の要望らしい。俺としては、一人でこんなところに来ることもないし、美月や健一とかが集まるってなると大抵は俺の家でってなるから案外ファミレスに行かないから新鮮だ。

 それに、友だちとファミレスなんて久しぶりだ。


「あ、高橋たちもここで良かったか?」

「俺はぜんぜん大丈夫だぜ」

「うん、俺も最近来てなかったし大丈夫だよ」


 俺はこういう時、健一のような誰とも明るく話せるコミュニケーション能力が羨ましく思う。


「普段はこういう時どこに行ってるんだ?」

「大体は悠真の家で食べてるな。料理もうまいし、ゆっくり出来るしいいんだよな」

「お前が勝手に乗り込んでくるんだろうが」


 どこに行くか聞く前にお前が勝手に決めてるんだろうが。それに、お前はこういう日だけじゃなくて、普段から夕飯を食べに来てるだろうが。


「いいなあ、林間学校のときに食ったときの高橋の作ったご飯は美味かったもんな」

「そっか、陽人は高橋と同じグループだったのか」

「そうだぞ。手際も良かったし、あの天ぷらはサクサクだったし美味かったな」


 そういえば林間学校のときに天ぷらを作ったな。家でやるには手間が多くて片付けも面倒くさいから作らないんだけどな。油が処理も面倒くさいから揚げ物自体あんまりやらないんだよな。


「俺も天ぷら食べたい。今度作ってくれよ」

「面倒くさいんだよあれ。特に片付けが」


 後片付けを全部健一がやってくれるなら作ってもいいぞ。油の後処理とか、コンロ周りにはねた油の処理とかもな。


「とりあえず注文しちゃおうぜ。俺はカルボナーラで」

「じゃあ、俺はハンバーグ」

「僕はミックスグリルがいいな」

「俺はエビグラタンにしーよおっと」

「俺もミックスグリルにしよっかな」

「あとみんなでつまめるようにポテトとピザも頼もうぜ」


 俺たちはそれぞれが食べたいものを小栗に言って、まとめて注文してもらった。

 注文が終わって、料理が運ばれてくるのを待っている間に俺は小栗に聞きたかったことを質問した。


「これって聞いてもいいのか分かんないんだけどさ」

「いいぞ。なんでも聞いてくれ」

「じゃあ遠慮なく。どうして俺は今日呼ばれたんだ?」


 単純に疑問だった。いつも話していない俺が、なんなら夏休み前まではなんの関わりもなかった俺がこの昼食の集まりに呼ばれたことが。


「うーん、特に理由は無いかな。強いて言うなら仲良くなりたかったからかな」


 小栗からはそんな答えが帰ってきた。


「ほら、俺と高橋って林間学校では同じグループになったけど、その後の関わりって皆無だっただろ」

「そうだな。俺がクラスメイトとの関わりを大して持っていなかったことが原因だと思うが」

「この前の夏祭りでも会ったし、仲良くなれたらなって思って」


 そういうことらしい。俺としては新しく友人が増えることはいいことだし、その相手が小栗なのは信頼できない相手じゃないしありがたいことだ。

 今日一緒に来ている長谷川も九重もクラスで見ている感じは信頼して大丈夫そうに思えるしな。


「夏祭りの時って高橋と会ったっけ?俺はずっと陽人と一緒にいた気がしたんだけど」

「会ってるし、会話もしたからね」

「・・・」


 まずい。これは非常にまずいことになった。どうやら長谷川は小栗といっしょに夏祭り回っていたらしい。小栗といっしょにいて、美月の浴衣姿に見とれていたやつの中に長谷川がいたってことだろう。

 ここで下手に喋ると俺が美月と一緒にいたことがバレる。いや、やましいことは別に無いしバレてもいいんだけどさ。


「ほら、俺がゆい愛梨あいりを追いかけた時があっただろ?あのときに、途中で高橋と会って話をしたんだよ。と言っても簡単な会話しかしていないけどな。なあ高橋」

「そ、そうだな。あの時は急に話しかけられて驚いたけどな」


 俺が何を話そうか考えている間に、小栗が話をまとめていてくれた。しかも、何かを察したのか俺と美月が一緒にいたことを悟られないような話をして綺麗に折れにパスをくれた。


「そうだったんだな。悠真を呼んだ理由とかはこれで大体分かったけどよ、俺まで呼んだ理由は?」

「ん?それは単純に高橋と一緒にいたからついでにって感じで誘った」

「ひでぇ!!」


 健一は何やら叫んでいたが、元々小栗とも話していたし扱いが雑なだけだろう。健一の扱いはどこに行っても雑なんだな。


「ご注文の品が参りました」


 そう言って、いや、そんな音声を流して、俺たちのテーブルのところに配膳ロボットが到着した。

 通路側にいた健一と九重がまとめて料理を取ってみんなの前に並べていった。小栗の前にカルボナーラを、長谷川の前にハンバーグを、俺と九重の前にはミックスグリルを、そして健一の前にエビグラタンが置かれた。


「とりあえず食べながら色々話をしようぜ」

「それもそうだな。俺は高橋とほとんど絡んでないからな」

「僕も遠目から見てるだけだったからあんまりわかんないんだよね」

「そうだな。俺も長谷川と九重とはほとんど話したことが無いからな」


 俺は長谷川とは少しだけ言葉を交わしたことがあるが、九重とは何も話したことはない。九重も俺と同じであまり人と喋るようなタイプでは無いからお互いに会話をする機会が無かった。


「さっき陽人とかも言ってたけどさ、高橋って料理上手いのか?」

「上手くはないよ。ただ、作る環境にいたからそれなりのものは作れるってだけだよ。一人暮らしは作り置きしてたほうがお金が浮くからな」


 俺も最初は全く作れなかったが、母さんと父さんから一人暮らしをする前に学んだものと、ネットでレシピを見ながら作っている間にある程度のものは作れるようになった。


「一人暮らしってことはこのあたりが出身じゃないんだね」

「ここから新幹線で一時間から一時間半ってところかな」

「そうなんだ。なかなか遠いところから来てるね」

「県外の中学校に通ってたし、両親も県外に住んでいるからな」


 一人暮らしするのに、高校に進学するのにここを選んだのは父さんと母さんだ。だから俺はここに居るだけなので、ここのことは何も知らなかった。高校まではずっと自分の家から通うつもりだったから。


「この前の夏休み、お盆の時は妹が新幹線に乗ってこっちに来たぞ」

「マジか、高橋って妹いたんだ」

「花音ちゃんのことは色々大変だったな。ほら、急に家を出ていってさ」

「あの時は色々大変だったな」

「お前の面倒見るとかな」

「その節は大変申し訳ございませんでした」


 あのときのことは健一だけじゃなくて、美月にも美由にも頭が上がらない。花音とお互いに思っていることをぶつけられたのは三人のおかげだったから。


「なんだ?健一と高橋はそんなに仲良かったのか」

「そうだけど?どうした陽人、羨ましいのか?」

「いや、高橋が大変そうだなって思っただけ」

「ひどくね!?」


 健一は小栗に対してマウントを取ろうとしていたが、躱されて反撃まで食らっていた。うん、小栗が健一の扱いが雑なのは気の所為じゃないらしい。


「でも、なんで二人はそんなに仲がいいんだ?俺から見ても二人は一緒に居ることが多いからよ」

「それは、俺が中学の時の悠真について知っていたからだな。あとは、部活が一緒だったからかな?こいつはなかなか有名な選手だったからな」

「そんなんじゃねえよ。俺と健一が同じマンションに住んでいて、お互いに一人暮らしをしてて、更に部屋が隣でこいつがグイグイ来ていつの間にかって感じだな」


 正直、ただの偶然に偶然が重なってきっかけが出来ただけだったと思う。もちろん健一が俺のを知っていたって言うのもあるけど、元々誰とも深い関係を作ろうとしなかったから家が隣でもないと最初の会話が始まらなかったと思う。


「へー、佐藤くんも一人暮らしをしているんだね」

「健一でいいよ。そのほうが話しやすいだろ?」

「う、うん。じゃあ、健一くん」


 今の会話を見ても分かるように、健一は距離の詰め方が上手い。だから俺のことも心配してくれる優しさも相まって俺は健一と仲良くなれたんだろう。俺は恵まれてるな。


「なあ、健一の家って中学校の近くにある家だよな?もしかしてどこかに引っ越したのか?」

「いや?母さんたちは今まで通りの家に住んでるし、あの家からでも学校に通うのは困んないぞ」


 美由は両親と一緒に暮らしているので、美由が学校に不便なく登校できているのでそのあたりは大丈夫なのだろう。それより、俺としては小栗が健一の家を知ってるのが気になるが。


「じゃあなんで一人暮らしなんかしてるんだ?」

「それは母さんの教育方針だな。高校生なんだから少しは自分で生活してみろって。もちろん家賃とかは全部出してくれているけど、娯楽とかは今までのお小遣いの貯金を切り崩してって感じだな。まあ、冬くらいからはバイトでも始めるさ」


 健一はそんなことをおちゃらけた口調で答えた。そのことも理由の一つ。というか、元々高校を決めたタイミングで決まっていたらしい。そこに美由との一件があったから家に居るのも少し気まずいって言ってたな。


「なあ、なんで小栗は健一の実家を知っているんだ?」

「俺と健一、ついでに大翔ひろとも同じ中学出身だからな」

「ま、部活はみんな違うけどな」


 言われて初めて知った。というかそんな大事なことがあるなら健一が先に教えてくれても良くないか?

 つまり、五人中三人が同じ中学校で、俺と九重だけが高校から一緒ってわけだ。


「なんだか小栗はサッカーで長谷川は野球って感じがするな」

「俺は合ってるけど、大翔は違うな」

「俺は吹奏楽部だ」

「・・・え!?」


 え?吹奏楽部ってあの吹奏楽部?こう言ったら失礼かもしれないけど、身体がしっかり鍛えられてて、体育の時間も運動できていたし運動部だと思ってたんだけどな。


「元々ピアノをやってたからそのまま音楽をやっていこうかなって思ったから吹奏楽部に入ったんだ。この筋肉は、モテたいから筋トレしてたらついた筋肉だから部活とは全く関係ないな」

「僕も初めて大翔のことを見た時は中学の時は運動部に入っていたんだと思ったよ」


 九重も俺と同じように長谷川が運動部だと思ったらしい。

 音楽をやっていて吹奏楽部に入ったという部分は分かったが、モテたいってだけでそんなに運動できるようになるものだろうか。


「そういう九重は?」

「僕はバドミントンだよ」


 バドミントンか。風の影響を受けるから真夏の体育館を締め切ってやってるのを隣で見てたし、走り込みとかもキツイ部活なんだよな。


「そうだよ、高橋。いや、悠真」

「どうしたんだよ急に」

「いや、俺はこれから悠真って呼ぼうと思ってな」

「別にいいよ。俺のことはなんて呼んでもいいぞ」


 俺は呼び方に関して特にこだわりがないからな。俺のことはなんて呼んでもらっても構わないし、あだ名を付けて呼んでくれても構わないからな。


「じゃあ、ゆーちゃんで」

「よし、健一お前は後でぶち殺す」

「なんでもいいって言ったじゃねえかよ!」


 確かに何でもいいとは言ったけど、超えてはならないラインというものがあるんだよ。お前はそのラインに触れるどころか飛び越えた。だからその罰だと思ってくれ。


「高橋ってこんなに喋るんだな」

「え、あ、教室ではあんまり喋らないようにしているからな」

「そうか。こんなふうにみんなと話せばもっと話せる相手とか増えるだろうにな」


 俺は長谷川のその言葉に驚いた。長谷川がそんなふうに思ってくれていることに対してもそうだが、ほとんど話したことのない長谷川と九重の前でも俺がちゃんと会話ができているということにも驚いた。


「でも、この前の夏祭りの時は女の子と二人きりでいたぞ」

「・・・え!?」


 俺は小栗のどの言葉に時間差で驚く長谷川のことを見ながら固まった。ん?お、小栗さん?さっきは俺と美月が一緒にいた事を隠してくれていたんじゃないんですか?


「どういうことだ高橋!!女子と二人で夏祭りにいたって」

「えっと、、、」


 おい、隣で今にもゲラゲラ腹かけて笑おうとしてるそこのお前、ちょっとはこの状況に困っている友人のことを助けてやろうとは思わないのかい?でも、元々こうなったときの回答は美月と話して決めていた。


「、、彼女だよ」

「マジかよ。なあ陽人、俺も高橋みたいに物静かなほうがモテたりするのかな?」

「そうかもね」


 思ったより彼女と言う単語を出すのに口ごもってしまった。やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。

 俺に彼女が居ると分かった長谷川が衝撃を受けた後、自分がどうやったらモテるか考えて、小栗に意見を聞いていた。

 その小栗は、俺が彼女と言った相手が誰だか分かっているからかニヤリとした笑みを浮かべるのを我慢している表情に見える。うん、お前さてはわざと言ったな。


「なあ、その彼女の写真は無いのかよ」

「うーん、写真は無いかな」


 正確にはあるのだが、その写真はモデルのときに取った写真だし、見せたら美月が彼女だってすぐに分かるからな。


「浴衣が凄い似合ってたよね」

「俺からしたらあの会場で一番似合ってるように見えたよ」

「ヒュー、悠真ってこんなふうに惚気けるんだね」

「ここまで来たら隠しようがないからな」


 ここまで来たらもういいんだよ。この状況を作った小栗に言うのはなんだか不服だけどな。

 ちょっとここらへんで反撃でもするかな。


「なあ、小栗が一緒にいた女の子二人はどっちか彼女なの?」

「うーん、幼馴染と仲の良い友だちかな」

「いい加減、唯から好意に答えてもいいんじゃないか?」


 そんな俺の些細な反撃をゆるりと交わした小栗だったが、隣にいた長谷川はそんな小栗を逃がすまいと会話をつなげてくれた。


「唯って一之瀬さんだよね?」

「ああ、唯と陽人は小学校の頃から一緒の幼馴染なんだよ」

「そうだね。でも、それを言ったら大翔もそうだろ?」

「そうだが?でも、今話題に上がってるのはお前だけだったからな」


 どうやら一之瀬さんと小栗は幼馴染らしい。うん、ラブコメで絶対的な負のポイントを持っている属性だね。


「僕は唯の想いにちゃんと答えてるよ」

「どうだか」


 長谷川みたらその二人がいつまでもくっつかないでじれったい感じがあるんだろうな。その立場は見てて楽しいけどもどかしいんだよな。


「これで彼女がいないのは俺と健一だけか」

「九重も彼女がいるの?」

「う、うん。違う学校だけどね」


 九重の彼女か。九重が大人しくて礼儀正しいやつだし、クラスの困り事とかを手助けしている部分もいくつか見てきてるし彼女もいい人なんだろうな。


「で、写真とか無いのかよ」

「恥ずかしいからダメ。高橋くんだって見せてくれなかったじゃん」

「いいよなー彼女。俺もほしいな。なあ健一、俺たち彼女いない同盟で合コンでもしないか?」


 どうやらスマホの中には写真が入っているようだが見せるのは恥ずかしいらしい。うん、分かるよその気持ち。

 長谷川は健一のことを誘ってるけど、こいつには美由がいるからな。というか、中学のときに付き合ってたんだから知ってるんじゃないのか?


「俺は彼女いるからパス」

「は?聞いてねえぞ俺は」

「中学のときから付き合ってたよ。他校だから知らなかったんだろうけど」


 どうやら長谷川には健一に彼女がいたことを知らされていなかったらしい。その証拠に、長谷川の隣の小栗はウンウンと頷いていた。


「じゃあ、彼女以内の俺だけかよ!!」


 そんな長谷川の悲しみのこもった声が少し大きな声で発せられた。

 店内ではお静かに。

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