第49話 魔の殿様遊戯

 棒を叩き落とすとA子は悪態をついてくる。

 それにサブローも乗っかってきた。まるで被害者であるかのようなリアクションだ。


「相変わらず嫌なヤローだな。せっかくのコンパを台無しにする気かよ。空気を読むのを身につけろ!」


「化け物になってもまだやるか。空気よりも現実をみろ、ここはダンジョンだ。モンスターとのコンパなんて誰も望んじゃいないんだよ」


「ふふん、バカを言え。俺の合コンは最高でみんな楽しくやってんだ。その証拠を見せてやる。おい、お前らいくぞ。殿様からのお下知はー?」


「「ぜったーーーーーい」」


「はあ?」


 さっきまでピクリとも動けなかった女性たちが、解放されたかのように飛び跳ねている。ただ顔だけは嫌そうだ。


 否応なしにみんなの体は操られている。その威力は強力で、とてもあのへっぽこサブローのとは思えない。


姿かたちから分かるように、三人は魔王と化したようだ。

魔王サブローと呼ぶに相応しい。


「ほら見ろ。みんなノリノリだろ。よーし、殿様がお下知しちゃうぞ。そうだな、みんな俺様のほっぺにチューをしろ♡」


 全員がゴキブリを踏んだかのような顔になる。それでも魔力が強く抵抗できていない。


 女性たちの動きはぎこちない。

 屈む魔王サブローに近づき、次々とキスをしていった。

 その中には心愛さんがいたのだ。


「サブローーーーー、何をした!」


「んん、あれだよ。殿様遊戯、合コンといったら定番だろ」


 首を傾け〈殿様〉と書かれた棒を振ってくる。それであるワードが頭に浮かんだ。


「ああああ、それは王様ゲーム!」


「ピンポ~ン~」


 噂だけは聞いていた。あまりにも地獄と天国の差がありすぎて、廃れてしまった伝説の合コン神ゲーム。

 いつかは俺もと考えていたが、目の前で見せつけられるのは悔しすぎる。


 しかも心愛さんを巻き込み体の自由を奪いやがった。魔王サブローのやつ、絶対に許すまじ。


「心愛さん、待っていて。術者を倒せば術は解けるはずだからね」


「はい、信じてます」


 血の涙が流れる。魔王サブローに言いたい事は山ほどあるが、意識を刈るのが先決だ。


 だけどその後は覚悟しろよ。

 心愛さんにこんな事までさせたのだ、それ相応の報いを受けさせてやる。


「バカな忍者め。この俺を倒すなど不可能だ。なにせ俺はあの魔王・織田信長から力を奪い、最強の軍団をも手に入れたんだ。いまや魔王の力は使い放題。俺を馬鹿にした人間を、根絶やしにしてやるわ」


 信長うんぬんは別にして、まとっている魔力は本物だ。

 だけど所詮はサブローだな。大事なことを見落としている。


「闇堕ちしたのは失敗だったな。モンスターは外に出れないのを忘れたか?」


「はっーはっはっはー、やっぱ忍者は低知能だな。魔素だよ、魔素。舞台は出来つつあるんだよ」


「へっ?」


「外界の魔素が濃くなれば、俺ら高位の者だって自由に出入りできんだよ。そんな事は魔王界じゃあ常識だぜ」


「しかも~三郎くんの凄いのは、合コンが魔素を上げるってのに気づいたところ。ほんと天才なんだから」


「まーなー、やっぱ俺は主役だからなぁ。ひゃーはっはっはー」


 魔王の力か、それとも欲望の極まりか。魔王サブローは常識をぶち破りやがった。


「う、嘘だろ。合コンをそんな理由でやってたのか?」


「ああ、合コンの欲望が魔素を高める。そして外でもやり続ければ、俺は無敵の殿様になれるんだ。分かったかい、クソ忍者くん?」


 な、なんて事だ。力業で世界をひっくり返し、しかも神聖なコンパを汚したのだ。

 ふざけたコンパを理由で開こうとは、なんて罰当たりなヤツなんだ。


 コンパを開くのは、モテにモテて天国を味わう。それがコンパの醍醐味だろ。

 目的がズレるなんてもっての他だ。


「あはははー、ポカーンとしてウケるーー」


「うむ、驚き方も計算通りだな」


「でもでも残念なのはー、ここに来てもクソ忍者は合コンに参加できませーん。だってだってそれはー、ザコは主役じゃないからでーーす。あー可哀想、可哀想。モブって本当に報われないねー」


 聞くに耐えがたい。これ以上話すことはない。

 心愛さんや世界のためにも、成敗してやる。


 まだウヒャウヒャ笑っているところを、渾身の力を込めて殴ってやった。


「痛ーーっ、何をするんだーーー!」


「あれ、倒れない?」


 仕留めるつもりで殴ったのに、サブローは痛がるだけで倒れもしない。

 力加減を間違えたかと、フルパワーで殴っておく。


「痛ってー、またやりやがったなーーー!」


 顔面は潰れ完全に破壊をした。

 しかし見えたのは、他の二人からのフォロー。

 潰れると同時にサブローを再生をさせて、只の軽傷で済ませているのだ。


 いくら速度をあげても結果は同じであった。


「えい、えい、えい、えい。っておかしいな。ぜんぜん浄化されないぞ?」


「いて、いて、いて、いてててててててー!」


「うーん、困ったな。全く同時に殴るってのは出来ないもんな」


 A子や純々に変えても同じ。

 他の二人からのフォローがあって、意識を刈ることができない。

 マッハを超えたスピードなのに、魔王の力は侮れないな。


 真の同時にヤルとなれば打つ手はひとつ。

 ……やりたくはないけど斬るしかない。


「痛いって言っているだろ。しつこいぞ、クソ忍者!」


「これで俺には適わないって分かっただろ。大人しくみんなを解放しろ。今ならまだ間に合う」


「うるせえ、偉そうにするな。俺は殿様だ。世界を支配をし、毎日合コンをやり続けるんだよ」


「そうよ、そうよ。インチキ忍者はお呼びじゃないわよ」


「だな、尊き血筋と酒池肉林を称えるがいい」


 今に始まったことではないけど、なんとも利己的で話が通じない。

 俺も腹をくくるしかないか。


「サブロー、本当に悔い改めるつもりはないのか?」


「うるせえ。おい勝家、何か策をだせ!」


『ははっ!』


 甲羅が人一倍おおきいゴリッゴリのS級カッパが出てきて、あご髭をなでながら値踏みをしてくる。


『きさま、伊賀者か。何百年たってもしつこい奴らよのう』


「いや、そんな長生きはしてないぞ。人違いだよ、たぶん?」


『ふっ、無知なヤツ。殿がアホウと言うのもうなずけるわ』


「人には得手不得手ってもんがあるんだよ。少なくとも剣の腕前は負けねえよ」


 カッパに笑われる日が来るとはな。

 ちょっとカチンときたよ。


 舐めてくるカッパは、良い事を思いついたとサブローに提案をした。


『殿、遊戯の続きをされてはいかがですかな? そこによい検体がおりますぞ』


 カッパはそう言い、心愛さんを顎でさす。

 サブローは3秒ほど遅れて、ハッと閃いた。


「おお、ナイス勝家ちゃん。そうだよな、俺は殿様。最高権力者だもんなーー」


『ははー、お褒めにあずかり光栄です』


「覚悟しろよ、クソ忍者。目にもの見せてやる」


「はー、そのカッパを倒したら諦めてくれるのか?」


「その余裕もそこまでだ。殿様遊戯で地獄をみろや。いくぜ、殿様が命令は~?」


「「絶対っ!」」


 まだ術下にあるみんなが跳び跳ねる。

 そこへサブローはすかさず続けた。


「【心愛ちゃんは~クソ忍者をこの短刀でぶっ殺せ】これが殿様からの命令で~す」


「まじか!」


 目視できるほどの魔力の糸が心愛さんにつながった。

 さっきの比ではない強力な呪縛。

 心愛さんは人形のように操られ、あり得ないスピードで襲ってきた。


「また、勝手に体が!」


 操られる心愛さんのスピードは、それなりに早い。

 だけど最大の問題は心愛さんってことだ。影だけでなく俺自身もうろたえてしまう。


「ごめんなさい、コテツさん避けて」


 操られている心愛さんが、普段はしないアクロバティックな動きで迫ってくる。

 飛んだり跳ねたり回ったりと、いつもは見れないアングルだ。


「す、素晴らしい」


 新しい魅力を見せつけられて、ドーパミンが大量放出する。

 心愛さんが動く度に、その可愛さで、ドキュンドキュンとハートを撃ち抜かれるよ。


 だけどこの可愛さは毒でもある。心愛さんの攻撃が何度か当たりそうになる。


 でもそれは絶対におきてはいけない事故だ。

 俺の防御膜はキツイから、生半可な衝撃だと反射してしまう。

 他の人ならいいのだが、心愛さんにだけはそんな被害を出したくない。

 絶対に気を抜けないのだ。


 …………それにしてもやっぱ可愛いな。


「ふははは、ヘタレだな。もうひと押ししてやるぜ」


 サブローは暗い笑みをうかべると魔力の糸は太くなる。そして心愛さんは悲鳴をあげた。


「きゃーーーーー!」


「えっ、どうしたの心愛さん?」


 避けただけなのに、心愛さんが血を吐き苦しみだした。

 何がおこったのか分からないが、ポーションを取り出し振りかける。

 心愛さん自身も何が起きたか理解できていない。


「サブロー、なにをした!」


「殿様の命令は絶対だからな。失敗するたびに罰を与えているんだよ」


「きーさーまー!」


「おっと、俺を倒しても効果は消えないぜ。何せこれは遊戯のルール。おまえが死ぬか、おっぱいちゃんが倒れるか。そのどちらか一つしか結末はないぜ」


 サブローはほくそ笑む。

 椅子を手下にもってこさせて、高見の見物をきめこむつもりだ。


 傀儡の上位スキルには、使役する者へ自動的に罰を与えるものがある。

 目的を再認識させるためというが、操っているのだから必要のないスキルである。

 でもこのサブローはそれを平然と行っているのだ。


 そんな残酷なスキルだが、対応策は簡単だ。


 サブローの言うとおり命令事項を満たしてやればいい。

 それにより罰が発動することはない。

 俺はサブローの悪意を受けるため、床に煙玉を投げて煙幕をはった。


 そして隠遁の術をかけて姿を隠した。

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