第48話 原初の大穴

「なんだ、こりゃ。フィールドダンジョンになってるじゃないか」


 ほんの数mしかないはずの狭いダンジョンが、見通せないほど広大な物へと変化していた。


 まず目に入ったのは黒い鳥居で、何十何百と続いていて、奥には大きな城まで見える。

 漂う魔素濃度も尋常ではなく、度肝を抜かれて動けない。

 ようやく頭を切り替え作戦を考えていると、またもや予想していない出来事が起こった。


「川口心愛さまとクソ忍者さまですね。ようこそ御出でくださいました。三郎さま達がお待ちです、こちらへどうぞ」


 着物を着たカッパの登場だ。

 どういう仕組みか分からないが、どうやらサブローに命に従っている。


 しかも言葉まで喋っており、カッパ自体かなりのランクアップをしている。


「コテツさん、どうしますか?」


「人質がいるし、ここは従ってみよう」


「はい」


 とはいえ気を抜かないよう警戒は必要だ。

 武器やアイテムの用意を密かにし、カッパの後をついて行くことにした。


 鳥居の曲がりくねった道をいき、ようやく大手門をへて城の中へと入る。

 邪魔はなかったが、ここまで来るのに三十分はかかっている。


 しかもその先は複雑に入りくんでいて、何ヵ所も部屋を通過した。


「ここです、お入りください」


 着いた部屋の襖には、大きな文字で合コン会場と直接書いてある。

 廊下から覗くと庭が見える大広間で、何人もの女性たちがいた。


 彼女たちが人質みたいだけど、そこに違和感を覚える。

 みんな平伏をして動かない。

 それこそ見えない檻に囚われているようで、全員がすごい悪態をついているんだ。


「あの中にハンターがいるよな?」


「ええ、装備からして高いランクの人達ですね」


 顔見知りがいるので、入り口の方からおっかなびっくり彼女たちに声をかけてみた。


「おーい、おーーい」


「えっ、まさか!」


「おーい、何してんのー?」


「こ、この声は愛染さま。来ちゃダメです、罠なの、来ないで!」


 魔力探知でさぐると、フィールドに魔法の残留物は感じない。

 設置型の罠ではなく、きっと術者によってかけられるタイプだ。


 心愛さんにもそれを伝えて彼女らに近づく。

 いつまでも土下座をされていると話しにくいので、立たせようと腕をとる。


「ほら、起きて。……あれ、全然うごかないじゃん!」


「ごめんなさい、強力な魔力でやられて。首から下がいっさい動かないんです」


 彼女らが受けているのは行動制限、もしくは操作系のスキルのようだ。

 体どころかスキルも使えない状態に陥っている。


 驚かされるのはその持続性だ。術者がここにいないのに、いっさい効果は弱まっていない。

 かなり実力のある者の仕業だ。


「君らは高ランクだよね。敵はそんなに強いの?」


「い、いや、アタイらを捕らえたのは人間で。逃亡中の小田三郎、ヤツにしてやられたんです」


「サブローって、あの起訴されている勇者の?」


「……はい、面目ないです」


 バツの悪そうにするギルドメンバーが一斉に喋りだす。

 Fランクにやられたのがかなり効いていたみたいだ。

 順番にしてくれとなだめているすぐ脇では、カッパが忙しなく動いている。


 しかもその数は何匹にも増えていて、お城の仕事をしているようだ。

 鬼気迫る様子で、たまにビクつき気もそぞろ。

 何かに怯えているみたいだな。


 そんな中、座敷で取り仕切る一匹がこちらを見て口を開いた。


「ようやく面子が揃ったか。では御三方さまをお呼びせよ。合同コンパを開始する」


 カッパの甲高い声のあと、太鼓がうち鳴らされて、他のカッパどもは頭を垂れている。

 信じ難いが今ので勇者サブローが、モンスター側だとはっきりと分かった。


「愛染さま、ヤツの誘いに乗っちゃダメだからね。主導権をもっていかれますから」


「ど、どういうこと?」


「説明している暇はないんです。とにかく相手にしないで。それでアタイたちもやられたんだから!」


 ギルドメンバーから、額を地面につけたままの忠告だ。

 よほど大事なことなのだろうが、徐々に熱を帯びる太鼓の音が邪魔をする。


 もう少し詳しくと言おうとした瞬間、ふすまが開く。そこに大河内純々とA子、それと勇者サブローが現れた。


 ただしその姿は俺の知るものではない。化け物に成り下がった哀れな三人の姿であった。


 体は一つなのに顔だけが三つ生えている。

 下から純々、A子、そして一番上のサブローと頭部だけが重なっていて、バランスが取りづらそうだ。


「殿様だ~れだ? それは俺ーーーー! 今日も楽しくやっちゃうよーーー」


「もう三郎くんったら~。格好良すぎーー」


「ぬははははー、茶々さまのおなりだー」


 セリフに合わせて体が動く。

 ただ体は一つしかないので、とても慌ただしい。


 サブローが軽薄な笑顔を浮かべれば、ダンスステップを踏み、A子が声援を送れば乙女チックに片足をあげる。

 純々にいたっては全く意味が分からない。


 呆気にとられているとA子が、心愛さんへ何かの棒を取れと差し出してかた。


「えっ、こ、これをですか?」


「ほら早くしな。グズだなんて笑えないよ!」


「は、はい」


 心愛さんはA子の高飛車な態度に飲まれてしまい流される。

 ニンマリとするA子が、今度は俺にも取るよう迫ってきた。


「いらん、それよりも彼女たちを解放しろ」


「クソ忍者、三郎くんの好意を無にするな!」


 棒を叩き落とすとA子は悪態をついてきて、サブローもそれに乗っかってきた。

 まるで被害者であるかのようなリアクションだ。

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