第40話 策はある

 あれ以来、ずっと真祖に付きまとわれている。しつこいのなんのって。完全にストーカーと化しているんだ。


 明らかに狙いは女の子たちで、俺には見向きもしない。

 むしろこの前の戦いで学習し、俺を見ると警戒してくる。そのくせ伝令に出した影分身を見つけては、ことごとく潰しにかかってくるんだよ。


 俺一人ならギッタギタにしてやれるのに、ずる賢い相手で嫌になるぜ。


 少しでも隙を見せれば霧になって忍び寄り、霧となって逃げていく。

 討ち取ろうにもなかなかそのチャンスが来ないのだ。


 つまり、こちらは防戦一方。


 その中で調査をするのだから、スピードは当然遅くなっている。


 移動時は無理として、二人の安全を考えると聖域サークルは必須だ。攻撃される心配はないが、その分行動が極端に制限される。

 しかもMP消費がバカにならないときた。


「マジックポーションはもってあと3日です。その後は回復魔法の分を残しておきたいですし、聖域サークルには頼れませんね」


「コテツくん、どうするの? わたし怖いわ」


「うーん、参ったね」

 

 討ち取る手段はあるけど、二人へのプレッシャーとなるので、その方法は極力使いたくはない。


 だから方針転換をすることにした。


「よし、このダンジョンは諦めよう」


「「えっ!」」


 攻略はここでなくても良い。

 心愛さんとの相性で決めただけ。無理をする理由がないし、ピンチになるよりはマシだ。


「そ、そうだよね。よかったー、私ずっとドキドキしてたんだよ。ははっ、ボスってあんなに怖いものなんだね」


 只でさえ恐ろしいS級ダンジョンだ。

 ボスの登場ですずちゃんには、かなりのストレスとなっていた。

 心が折れかけていたのは分かっていたし、ここらが潮時だと判断した。


 帰り支度をはじめると、心愛さんが浮かない顔でつっ立っている。


「どうしたの、具合でも悪い?」


「コテツさん、何か策があるんだよね?」


「えっ、分かるの?」


「だって独り言が大きいもの。『このタイミングか~』って、何か掴めたようだしね。だから一人で抱えこまないで話してよ」


「お、おう」


 見事に言い当てられたものだから、素直に全部を話してしまった。


 相手は賢く俺がいれば襲ってこない。

 霧となり、壁などの障害物をものともせず、襲い逃げていく。

 それでいてS級ダンジョンのボスだから、タフであるのも間違いない。


 それを踏まえると取れる手段は1つだけだ。考えた作戦を二人に話した。


「それってヤバいよ。心愛ちゃんが死んじゃうよ!」

「うん、それいいじゃないですか!」


「「えっ!」」


 真逆の反応をする二人。互いに横目でうかがい引いている。

 口をポカーンと信じられないといった面持ちだ。


「心愛ちゃん何を言ってるの。リスクがあるのはあなたよ!」


「でもすずちゃん、他にアイデアがある?」


「うっ、それは無い。……でもさ、コテツくんも言ったように、ここじゃなくても良いじゃん。無理する必要はないよ」


 凄い勢いで説得するのに対して、心愛さんはとても静かだ。

 すずちゃんの言う事を、優しくうなずき聞いている。


 そしてゆっくりと話し出す。


「ううん、コテツさんが最初に決めた場所だからやりきるべきよ。逃げたりしたら、みんながガッカリするもの」


「それってプライドの問題じゃない」


「そう、コテツさんは誰よりも輝いていて、誰にも真似できない存在なの。それが最強忍者、愛染虎徹。みんなの憧れなのよ」


「そりゃコテツくんは凄いけど、無理する理由にはならないわ」


「ううん、コテツさんなら無理じゃないわ。ただ私たちに気を使っているだけ。一人なら難なくやってみせるもの」


「それでも……」


「それにね、私はコテツさんを信じているの。私が傷つくことは少しもないわ。ですよね、コテツさん?」


 心愛さんは俺を信じてくれている。俺の想いと能力を。

 だから『危険だぞ』なんて野暮なことは聞かないさ。

 ゆっくりとうなずき、いつものセリフを言うだけさ。


「お、おう」


 心愛さんも笑ってくれている。


「おう、じゃなーーーい。やっぱり危険、ダメだよ」


「ん? すずちゃんのラッキーガールがあるだろ。無茶でも運でなんとかしてくれよ」


「何よソレーーーーー!」


 俺らのノリにすずちゃんは根負けをした。

 最後には諦めて、打ち合わせに加わってくれたよ。


 念入りに計画を立てていく。

 メインは心愛さん、攻撃は俺、そしてサポートはすずちゃんだ。


 しっかりと役どころが決まり、明日仕掛ける事にした。

 チャンスは一回のみ。

 ネタがばれたら次はない。


 バンパイア真祖を必ずや討伐してみせる。

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